今石洋之とコヤマシゲトが語るアナログとデジタル 「3DCGに描いてるのと同じ手間を求めてしまう」「要らない工程はなくてもいいんじゃないか」

■本質はショボくないものを作る 技術は限界まで高まってるので知恵を絞る

1610_atsuc20164_2.jpgコヤマシゲト(左)と今石洋之(右)

 コヤマは、制作に参加した日本アニメ(ーター)見本市の『カセットガール』(15年配信)を例に出し、「CGアニメーターが3DCGでレイアウトを上げてきて、そこにスタジオカラーの松井(祐亮)くんが演出指示としてアナログで描いた絵をスキャンしたものが乗っかってました。つまり3DCGの上にアナログのレイヤーが乗ってるんですが、そこから更に僕がデジタルで修正を出して、それを再度3DCGで組み直す、っていう複雑なことやってたんですけど、各々が最適な方法でやって最終的に画にまとめるというのが、とても面白かったですね」と振り返った。

 もともとコヤマは以前から3DCGに興味があったという。「専門学校の時に僕は3DCGをやってたんですが、何を思ったのか、『これからはアナログの時代が来る!』と思って逆行した人間なんです(笑)。というのもアーケードゲームの『バーチャファイター』(1993年稼働)に影響を受けた世代なので3DCGの専門学校に通ったんですが、当時の3DCGはマシンスペックに依存してて、自分がこういう表現をしたいと思ってもできなかったんです」と振り返った。「でも隣の2DCGのクラスに行ったら、みんなが手で描いて動かすというのをやってて、こっちが未来なのかもしれないって思って(笑)。3DCGは粘土こねるみたいで面白いんですけど、作業自体が面白いってことにはそこに罠があるわけで、これは危ない、帰ってこれないかもと思って止めたんです」。

 一方の今石も「『ブラック★ロックシューター』(12年放送)でCG特技監督をやった時は、指示は紙で描いてました。2Dの手描きだと描き直せるけど、3DCGだと描き直せないんですよ。でもCGアニメーターも上手い人は言えば伝わるので、こうしてほしいってイメージだけ伝えてましたね。これで自分も3DCGを覚えたら、さらに踏み込んだことができるかもという気持ちはあるんです」と話す一方で、「2Dでもアニメーター出身の演出とそうでない演出では、突っ込める領域に差があって、絵が描けない人では出せない指示をアニメーターなら出せるわけなので、その壁を超えることができたら最強ですけど、それは同時に危険ですよね」と、コヤマに同意した。「ある種の制約がある方が知恵を絞れるし、自分ができないからこその指示出しができるし、しっかりコンセプトを出せれば誰がやっても思った通りになることもありますから」(今石)と、制作環境の良し悪しは周囲のスタッフ次第でもあるようだ。

「機械的な仕上がりで良ければ楽なんですけど、この業界ではそれを要求されてないはずなので、人間が見るものを作ろうと思うなら、機械の限界を超えたところで作るしかないです。3DCGスタジオのサンジゲンと一緒に仕事していても、『これどうやったの?』って聞いたら『描きました』って(笑)。CGモデルでもあり得ない関節の外し方してるし、若干3DCGの特性を否定しているような、描いてるのと同じ手間のかけ方を求めてしまうし、視聴者に届くのはそういうところだったりするかもなあと思ったりしますね。良い3DCG作品を作ってるところはCGアニメーターが上手いから作れてるのであって、ソフトがいいからではないはずです。人間力なのは変わらないんですね。絵を描かない人でも絵を描いてるのと変わらないわけだから、センスでしかないですね」(今石)

 コヤマは「手間暇かけたものは、デジタルだろうがアナログだろうが、人が感動する力があると思います。でも当然ながら、単純に作画に手間をかければ感動するのか、という問題に突き当たるわけで、そうではないだろうとは思うんですよね」と言う。

「クオリティが高くなくても面白いっていうフィルムもあるわけで。個人的にはもうちょっとショボいものも増えてほしいって思いもあります。質は高いんだけどショボいものもあって良いかなと思うんですよね。慣例としてやるくらいなら要らない工程は省いてもいいんじゃないかと思いますし。そんな思いがあって、日本アニメ(ーター)見本市で監督した『おばけちゃん』(15年配信)の時はシナリオも設定も美術も色彩設計も置かなかったんです(笑)。短編企画だったのもあって、通常のアニメ制作における労力と時間がかかるセクションをすっ飛ばして、アイデアひとつで自分ができる範囲だけでやるとどうなるのか、っていうケーススタディとしてやってみました」(コヤマ)

 また今石も日本アニメ(ーター)見本市で、『SEX and VIOLENCE with MACHSPEED』(15年配信)の監督を務めたことから、「今時の日本のアニメは質が上がりすぎてるってのが言いたくて、線が少なくて色も5色。デジタルになって無限に色が選べるようになったのに5色以外の色は禁止ってことをやってました」と、コヤマに賛同し、実例を挙げてみせた。

 最後にコヤマは「僕は今後も“ショボいもの”を作っていきたいです。とはいえ、本質的にショボいものは作るつもりはないのでご安心ください(笑)」、今石は「コヤマさんと同じことかもしれないけど、やっぱり知恵を絞ることが大事かな。技術はやれる限界まで高まっている気がしてて。下手したら要らないくらいある。あえて知恵を絞って過剰にしてるとか、自覚的ならいいんです。そういうもんだからってやってしまうと、何故こんなに緻密なのか、それで何を伝えたいのかが存在しないままできあがることが多々ある気がします」と講演を終えた。
(取材・文/真狩祐志)

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