今石洋之とコヤマシゲトが語るアナログとデジタル 「3DCGに描いてるのと同じ手間を求めてしまう」「要らない工程はなくてもいいんじゃないか」

 9月25日、秋葉原UDXにて「あにつく2016」が開催された。昨年から開催された「あにつく」は、アニメ制作を目指す次世代のクリエーターやアニメファンを対象に、アニメ制作の楽しさを伝え、人材発掘・育成を目的とした、アニメ制作技術に関する総合イベントだ。さまざまなセミナーの中から、本稿では「基調講演」の模様をお送りする。

1610_atsuc20161_2.jpg「あにつく2016」基調講演

 基調講演で登壇したのはアニメ監督の今石洋之とデザイナーのコヤマシゲト。聞き手はアニメ研究家の氷川竜介が務めた。話は公開中の映画『シン・ゴジラ』『君の名は。』をツカミとして、徐々に本題へと移っていった。

■作画をデジタルにすると早いのか? 拡大して描き込みすぎると逆に遅くなる

1610_atsuc20162_2.jpg左からコヤマシゲト、今石洋之、氷川竜介

 今石はデジタルとの出会いについて、まず「最初はセルでしたね、アナログの。初演出したくらいまでアナログで、その後くらいから徐々に仕上げと撮影がデジタルになってったんで、ちょうど境目くらい。両方経験できて貴重だったと思います。もう15年くらい前ですけどね」と、業界内の動向を当時の様子から回顧した。

「変化(の速度)は僕の体感ですけど早かったです。『いつか仕上げと撮影がデジタルになるぞ』って話があったんですけど、急にガラガラっと2、3年の間に100%変わっちゃった印象です。それが凄く早くて、効率も上がったんですよね。仕上げも撮影も今まで大変だったのが簡単になりましたし、楽な方向に行った方が利益がありますから。移行は早かったという記憶があります。当時、仕上げと撮影をアナログでやってた人たちは、切り替えが大変だったんじゃないかなとは思いますけど」(今石)

 対するコヤマは「『STAR DRIVER 輝きのタクト』(10年放送)までは設定作業もアナログで行っていたんですけど、劇場版の『スタードライバー THE MOVIE』(13年公開)からはフルデジタルにしたんですよ」と、自身の導入の時期について触れた。

「ラフからクリンナップまでデジタル。キービジュアルのポスターの原画を描いてたんですけど、アナログで大判は疲れると思って、ロボットだから半分描いて反転すればいいやって(笑)。そしたら塗りまで含めて1枚仕上げるのに5時間くらいで終えられて(笑)。やっぱ早いわって思ってそれからデジタルにしたんですけど、『キルラキル』(13年放送)の最初の設定の頃は、効率が上がらずに下がってきたんです。というのも、デジタル上で画像を拡大して作画してしまってたんです。細かいところを綺麗に描きすぎてしまって」と明かしたコヤマ。

 さらにコヤマは「丁寧になるけど時間ばっかりかかって『ヤバイ! スケジュールに間に合わない!』って思って。最終的に紙を借りて勢いつけて描いたら早く終わったんで、設定画を描く時はやっぱりアナログがいいなって思いましたね」と、導入の良し悪しにも言及した。

 今石も「最近ちょっとデジタル作画も始めてみて、思うところはあるんですけど」と応じた。「TVPaintに出会って『これなら描けるんじゃないか』って。『全て紙でやりました』って言われても遜色のないところまで行けるんだなという実感で、ラフな鉛筆線ではみ出てても色が塗れたりするのもお得感がありますね。今までの二値化した線だと、仕上げ線を全部1回描いた上にまたラフな線を乗っける二度手間みたいなのをやっていたので」と長所を挙げた一方で、「ただアナログからデジタルに転向しようとする人だと、逆に時間がかかる場合があるんですよね」と、短所にも触れた。

「慣れたとしても、さっきコヤマさんが言ったように、どこまでも詰めれたりするんで描きすぎちゃうってのもありますし、いつも手癖の感覚だけで描いてた動きとか曲線とかを考えながら描かなきゃいけないんで、相当これは慣れるまでに時間かかるなあって。描けはするけど、自分にはまだ大量生産に向いてません。ただFlashとかだと無理かもって思ったことが、TVPaintだったらやれと言われたらやれるなというとこまでは来ました。紙でペラペラめくって覚えてた感覚を、脳内で変換しながらやることにストレスはあるんですけど」(今石)

 今石は続けて「タブレットから入ってる若い人、鉛筆の方が描きづらいよという若い世代ならなら全然問題ないと思います」と補足。「若い人は『試行錯誤できるんだから後で変えりゃいいじゃん』って思うかもしれませんが、僕みたいなアナログからデジタルに移行しようとしてる人は、動きのイメージを考えるのを終わらせてからタブレットに向かってると思うんですよ。デジタル上で描きながら考えるっていうのができないんです」と分析しながら、「雑に描けなくてクリンナップしちゃうこととも繋がっていますが、その壁を超えたらすんなり行くだろうなと」とまとめた。

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