『かつて神だった獣たちへ』人の心を浮き彫りにするシリアスダークファンタジー

 怪談系ラブコメ『黄昏乙女×アムネジア』で人気を博し、現在は異世界ラブコメである『結婚指輪物語』(スクウェア・エニックス)を連載しつつ、一方で異形との戦いを描いたシリアスダークファンタジー『かつて神だった獣たちへ』(講談社)を連載中のめいびい氏。今回は、先日コミックス最新刊第4巻が発売された後者の作品を取り上げたい。

 ある時代のある国で、国土を南北に分けた内戦が長く続いていた。そこで北部が禁忌の技術をもって作り出した異形の兵士たちがいる。それは“擬神兵”と呼ばれ、神にまで喩えられていた。人間の姿と引き換えに怪物の姿と化して得た強い力をもってして、彼ら“擬神兵”は戦乱を和平へと導いたのだが……。ようやく戦争が終わり、平和が戻った世の中では、かつて神と称えられた“擬神兵”も、もはやただの“獣”と呼ばれて恐れられていた。それほど“擬神兵”の力は強く、人の手に負えるものではなかったのだ。見た目は怪物、食料は家畜などで、かつての戦争の英雄の面影はもうなかった。人間から見ると、今はもうただの畏怖の象徴でしかなく、平和をもたらしてくれた感謝の念などとうに失われていた。

 主人公の少女・シャールは、貧しい孤児院を運営していた父が“擬神兵”となった過去を持つ。兵士となることで孤児たちを養うための資金を得たが、戦争が終われば用なしの“擬神兵”。そんな父を白いフード付きコートの男に殺されたシャールは、ようやく彼を見つけて象打ち銃で殺そうとした。しかし失敗してその男に連れ去られてしまう。実はこの男・ハンクは、“獣狩り”と呼ばれる、元“擬神兵”だった。彼らの仲間内での約束事は、「心なくした者は、仲間の手で葬る」ということ。ハンクは人間の心を失い、人間に害なすただの“獣”になった仲間たちを殺す役目を負っていたのだ。

 シャールは父が何故殺されなければならなかったのかを知るため、ハンクとともに旅をすることに決める。その道中で出会った“獣”たちは、誰もが皆哀しい過去や理由を背負っていた。「あの戦場で、英雄として、“神”として死ぬべきだったのか?」と問われるハンクだったが、答えを出せないまま仲間たちを抹殺していくしかなかった。“獣”たちにはそれぞれの正義や目的があり、何も問答無用に人間に危害を加えていたわけではなかったのに。貧しく金が必要だった元人間が志願して“擬神兵”となり、平和をもたらしたというのに、“獣”と認識された途端に殺処分される理不尽さ。これは正義と悪のバランスのまさに紙一重の違いでしかない。

 シャールはハンクとともに旅を続けるうち、元“擬神兵”である彼が、人間と“獣”の姿との間を行き来できる稀有な存在であることを知る。そしてハンクもまた“擬神兵”に変身するたびに、自分も“獣”に近づいていっていると自覚していた。そして2巻の最後に、町をひとつを破壊するほどの強力な力を見せ、ハンクは姿を消す。3巻はその1年後から物語が再開するのだが、その頃には人間による擬神兵討伐部隊・クーデグラースが結成され、また一方では“擬神兵”たちを率いるケインという男が祖国からの独立宣言をしていた。このケインという男もまた“擬神兵”であり、ハンクと深い関係を持っていて、擬神兵討伐部隊・隊長のクロードの兄でもあった。複雑な関係のまま、世界は再び戦争へと突き進もうとしている──。

 そして、意外な事実も明らかになる。実はシャールの父はハンクに殺されて埋められていたはずだったのだが、あまりの強い生命力のために生き長らえていたのだ。今度は討伐部隊によって本当に殺されてしまうのだが、その描写の中で、昔はシャールと父に良くしてくれていた村人たちの態度が豹変する姿が生々しい。父の貢献した分の金を受け取っておきながら、シャールを「疫病神」と罵ったりするなど、人間の汚い部分に焦点を当てている。また「心なくした者」と言われながらも、それぞれに正義や目的を持っていた“獣”の哀しみに深く感情移入させられる『かつて神だった獣たちへ』は、人の心を浮き彫りにする作品といえよう。ハンクと擬神兵討伐部隊は一時結束し、“獣”を狩る旅に再び出発する。4巻の最後でシャールが決意したハンクへのある“約束”が、果たされなければ良いと願うばかりだ。
(文/桜木尚矢)

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