『兄の嫁と暮らしています。』(くずしろ)百合? 兄の嫁と肩寄せ合って暮らす小さな幸せ 

 くずしろ『兄の嫁と暮らしています。』(スクウェア・エニックス)。このタイトルから、どんな物語を想像するでしょう。

 もしや期待しているかもしれませんが、決してエッチな物語ではありません。しいていえば、百合です。

 物語のヒロイン・岸辺志乃は17歳の高校生。早くに両親を亡くした彼女ですが、唯一の肉親だった兄も半年前に病気で死んでしまいました。

 もはや天涯孤独の身の彼女が一緒に暮らしているのは、兄の嫁だった希さん。いくら、兄の嫁だったとはいえ、もとは赤の他人。それゆえに、どこか他人行儀なところはなくなりません。

 日々の生活を共にしていることを除けば、希さんからもらっているのは月に5,000円のお小遣いだけ。急な出費が必要なときも、両親が健在なクラスメイトと違って頼る先もなく、どこか寂しい思いをしています。その様子を希さんは見逃しませんが、志乃は「迷惑かけませんから」と強がるのです。

 そんな義妹の姿には、希さんも悩んでいます。大好きな夫の唯一の肉親。大事な義妹だから、もっと支えてあげたい。その想いが空回りしてしまっているのではないか……。

 そんなビミョーな関係の2人が、日々の事件の中で次第に新しい家族となっていくのが、この物語の本筋なのです。

 この作品の優れたポイントは、設定が細かいこと。そもそも、志乃の兄と希さんも、ちょっと付き合って結婚に至ったみたいな関係ではありません。どうも高校生のときからの、長い付き合いの末に結婚に至ったという関係のようです。相当、お互いを知ってから結婚したわけですから、残された義妹に対して義務感ではない責任感が芽生えるのは当然でしょう。

 そして、希さんの仕事は小学校の先生。その職業ゆえに、自分がもっとしっかりしなくてはいけないという重荷も感じていることは、わかります。そのことに気づいているからこそ、志乃は迷惑をかけたくないと感じているのです。すなわち、お互いが大事に思いすぎているから、ちょっとビミョーな関係が生まれてしまうわけなのです。

 一話完結で進む物語の中で、このビミョーな関係にも少しずつ変化が生まれます。決定打となるのは、一緒に買い物に出かけたところ、希が受け持つ生徒に出会うシーン。その生徒に希との関係を聞かれて、戸惑ってしまう志乃ですが希は「いもうとでしょ」と、すんなりといってのけるのです。

 この部分は、いわば神回。希が、なかなか口に出せない「もっと頼っていいのよ」という意志を明確に示したところなんですから。

 肉親を失うとてつもない不幸の中で見つかった、小さな幸せ。この切なさに、涙しない人はいないだろうと思う名作。続刊も楽しみですね。
(文=大居候)

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