『フランスはとにっき 海外に住むって決めたら漫画家デビュー』(藤田里奈) 無職アラサーがパリで暮らすとこうなる 

 もはや、日本に住んでいる理由はコミケのためだけだと考える、今日この頃。ええ、ドアを開けて東京ビッグサイトまで1時間かからないのは、とても素敵な住環境です。

 とはいえ、物欲も減ってきた今となっては、商業の新刊は電子書籍で手に入るしで、その魅力も年々低下しているのである。

 いや、特に海外に行ってみたい崇高な理由などありません。単に物見遊山がしてみたいだけなのです。そんな志もないことを考えているのは、私ひとりではないことがわかりました。藤田里奈『フランスはとにっき 海外に住むって決めたら漫画家デビュー』(徳間書店)は、まったく志のカケラもない、パリ滞在記です。

 最近は、いろんな事件で魅力を半減させているとはいえ「パリに住みたいか」と聞かれたら、半数くらいの人が手を挙げるのではないでしょうか。

 作者の藤田氏は、無職・彼氏なし・英検三級かつアラサーの身で単に海外に行ってみたいと思いでパリに住むことを決めたのです。

 しかも、パリに決めた理由はワーキングホリデーの選択肢の中でイギリスほど人気がないからというもの。なんかの無頼派かと思うほど無軌道です。

 無軌道は、それどころではありません。パリに住むことを決めている最中に、以前に考えたマンガのネタを見つけた藤田氏は、同人イベントの出張編集部に持ち込みをするのです。

 もしも友人知人が、こんな行動をしていたら心配になりますが、これをきっかけに藤田氏は渡航直前に「COMICリュウ」で連載が決まってしまうのです。

 なんだこの人は! と読者のほうが唖然とするでしょう。ワーキングホリデーというのは、生活費は自前。なので、現地で仕事を探さなきゃいけないのですが、現地でマンガを描きながら暮らせばよくなったわけですよ。いやあ、藤田氏が人生の幸運値を使い果たしている気がして心配になってしまいます。

 ともあれ、志もないゆえに藤田氏の滞在記は、ものすごく生活目線です。そして、パリというのが、なんだかとてもヤバい街に見えてくるのです。病院も店も不便、交通機関はストライキで止まる。おまけに、みんな「それは俺の仕事じゃないから」と誰も責任も取らないのが常識。そんなのが、当たり前の世界に身を置いた藤田氏は、そこにものすごく適応していくのです。

 それが明らかになるのは、カッパライに遭うエピソード。弄っていたiPhoneをカッパライに奪われた藤田氏は、次の瞬間、蹴りを入れてiPhoneを取り返したのです。無意識に蹴りを入れてしまった自分にドキドキとする藤田氏ですが、とてつもない環境への適応力ではないでしょうか。

 数々のエピソードを通じて感じるのは、世界のどこでも、だいたいテキトーに生きていくことはできるのではないかということです。現金以外に必要なモノは、自己主張する気持ちだけだと思った次第です。
(文=昼間たかし)

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