35年前、薬師丸ひろ子はデビュー曲「セーラー服と機関銃」で「さよならは別れの言葉じゃなくて」と歌った。「再び逢うまでの遠い約束」と。
少女が歌うその歌は大ヒットし、多くの人があらためて「さよなら」の意味に思いを馳せたことと思われる。
『時をかける少女』最終話、このドラマを見た人もまた、「別れ」と「さよなら」について思いをめぐらせたのではないだろうか。
未羽(黒島結菜)は、未来から来ていたお好み焼き屋の店主、三浦(高橋克実)に、自分と妻の出会いがなかったことにしてほしいと頼まれる。未来の人間が、現代で生きようとすると、老化が早まり、早死にするというのだ。
「このままさよならをするのは耐えられない」三浦は言う。
はじめは断っていた未羽だが、三浦の強い思いに押されて了承する。
「出会った責任はあると思う。家族からは逃げないで」
未羽の言葉を聞き、家族たちの前で別れの言葉を話す三浦。
未羽は店の外でそれを聞いている。
「私が消すんだ。この家族を。この絆を」未羽はその思いにさいなまれたことであろう。それでも、彼女は過去に行き、2人の出会いを無くした。
「タイムリープ」という出来事を通して、未羽は強くなった。何事もない毎日がやってくることの大切さを知り、変えてはいけない運命の残酷さを知る。
大人になるということには、いろんな側面があるけれど、悲しみを知ったり、別れを知ったり、そしてそれを受け入れる強さを持ったりすることもそのひとつだ。そんな意味で、彼女は大人になったのだ。
そして次は未羽の番。
三浦から「翔平(菊池風磨)も未来から来た人間だ」と聞かされた未羽は、小さい頃の翔平のことを思い出そうとして走り出す。
「時をかける」その姿を象徴するように走る。そして思い出す。「吾朗ちゃんだ……」翔平との思い出だと思っていたのは、実は吾朗(竹内涼真)との思い出だったのだ。
事実を知り、翔平の命を守るため、彼を未来に帰そうとする未羽。一緒にいるために、この時代に残るという翔平。
「恋なんかしなきゃよかった」未羽はつぶやく。
しかし、しなきゃよかった恋なんてきっとない。どんな恋だってそのこと自体に意味がある。きっと。
悩んだ末、未羽は、すべてが始まった時間、7月7日の理科室へとタイムリープする。
今までの思い出を話して、泣き崩れる未羽。写真を見ながら夏を振り返り、翔平との別れを惜しむ。
最後、翔平のずっと持っていた写真集が、未来の未羽によるものだとわかる。記憶を消される未羽と、未来へ帰っていく翔平。でも、2人の間には、100年の時を超える一本の糸がつながっているのだ。
ラストシーン、未羽は夏の空に向けてシャッターを切る。もう初恋の記憶はない。それでも、心のどこかに刻み込まれた思いによって、夏をカメラに納めようとしている。
タイムリープによってやり直した時間は、なかったことと同じだ。それでも、心や体に刻まれた「思い」によって、その時間は永遠になったと信じたい。
原作の『時をかける少女』では、最後にこんなシーンがある。
未来へ帰る少年に少女が「もう会えないの?」とたずねる。
「また会いに来る。でもその時はもう全く別の人間として」
そう答える彼に彼女は言うのだ。
「私にはわかる。それがあなただということが」
今回のドラマで、これから先のことは、見るものの判断にゆだねられたということだろう。翔平はまた未来からやってくるかもしれない。未羽が彼に気づくかどうかもわからない。
未羽は吾朗と結婚するかもしれないし、全く別の人と恋に落ちて、幸せな家庭を築くかもしれない。ただ、例え時間をやり直して、なかったことになった思い出たちも、どこかに存在したことは確かなのだ。
そして、今回の出演者と、ドラマを楽しんだ私たちと、その共有した時間と思いは永遠だ。
第1話の時よりも、少しだけ大人になって、とても魅力が増した黒島結菜を見て、そんなことを思うのだ。
(文=プレヤード)
100年の時をつなぐ一本の糸──ドラマ『時をかける少女』最終話レビューのページです。おたぽるは、芸能、アイドル&声優、黒島結菜、時をかける少女、プレヤード、竹内涼真、菊池風磨、高橋克実の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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