高海千歌の「輝きたい」は、なぜ胸を打つのか──アイドル存在論としての『ラブライブ!サンシャイン!!』第1話レビュー

1607_sunshine.jpg『ラブライブ!サンシャイン!!』公式サイトより

 6年がかりの大団円から急転直下で暗黒面(乳首的な意味で)に堕ちていった『ラブライブ!』の続編『ラブライブ!サンシャイン!!』(TOKYO MXほか)が、ついにスタート! さっそく第1話からレビューしていきたいと思います。

 今回の主人公は高校2年生の高海千歌(たかみ・ちか)ちゃん。「くちびるヌード」の人と漢字違いの同姓同名ですね。ショートカットですし、どことなく面影があるような、ないような。

 そんな千歌ちゃん、「何かに夢中になりたくて、何かに全力になりたくて~」とくすぶっていたときに出会ったμ’sのステージに衝撃を受け、自らもスクールアイドルになることを決意します。舞台は静岡・沼津市の浦の星女学院。新学期を迎えた日、親友の渡辺曜(わたなべ・よう)ちゃんと、「春から始まるスクールアイドル部!」の勧誘に勤しんでいます。

 ところが、まるで見向きもされない2人。「今、大人気のスクールアイドルでーす!」という千歌ちゃんの叫びも、空に吸い込まれていくばかりでした。どうやら沼津はスクールアイドル文化後進地として描かれるようです。海きれい。

 そこに通りがかった新入生2人。ともに美少女。さっそく千歌ちゃん、勧誘にかかります。完全に漫才師みたいな名前の国木田花丸(くにきだ・はなまる)ちゃんは、第一声から「ずら?」と……。「あなたの頭髪はかつらですか?」という意味ではなく、単なる方言のようです。戸惑う花丸ちゃんの陰から、募集チラシに興味津々なのが赤髪の黒澤ルビィ(くろさわ・──)ちゃん。ところが千歌ちゃんが「あなたみたいな可愛い子に、ぜひ!」と手を取ると、即赤面&絶叫! 大パニックですわ。

 と、そこに空から降ってきたのが(本当に降ってきた)、「ヨハネ」と名乗り、「ここはもしかして、地上?」「この身体は単なる器なのですから」などと口走る、あんまり大丈夫じゃなさそうな津島善子(つしま・よしこ)ちゃん。花丸ちゃんと幼稚園時代の同級生だったため、あっという間に人間であることがバレてしまいます。

 ここまでで、実に手際よく1年生3人の紹介が終了。千歌ちゃんは、あとで「スカウトに行こう!」と決意を固めました。

 その背後から「いつ何時、スクールアイドル部なるものが……」と千歌ちゃんに冷たい視線を向けるのが、生徒会長の3年生・黒澤ダイヤ(くろさわ・──)ちゃん。ダイヤちゃんによると、千歌ちゃんのスクールアイドル部は設立どころか申請すらされていないそうです。部の申請には最低5人の部員が必要ですが、現在、千歌ちゃん1人。一緒に勧誘していた曜ちゃんは水泳部なので、今のところ部員ではありません。

 千歌ちゃんは5人集めて再び申請に来ることを告げますが、ダイヤちゃん「私が生徒会長である限り、スクールアイドル部は認めない!」と宣言。ビュービューと風が吹き込み、まるで鬼神です。今作、風とか海の水面とかの描写がすごくきれい。予算がたくさんあるのかな。

 曜ちゃんによると、ダイヤちゃんがスクールアイドル部を認めないのは「あーゆうチャラチャラしたものは嫌いみたい」だからだそう。そんなフワッとした理由で!? と思いますが、3年生ですし、なんらかの過去が明らかになっていくのでしょう。

 続いて、家業の手伝いで休学している松浦果南(まつうら・かなん)ちゃん。ウェットスーツがやけに艶めかしい感じです。千歌ちゃんが「私ね、スクールアイドルやるんだ!」と明かすと、作業をしている手が止まります。こちらも3年生ですし、「スクールアイドル」という言葉に何かありそう。スクールアイドルの魅力を訴えようとする千歌ちゃんの顔面に干物3枚(たぶんアジ)を押しつけて口をふさぎます。

 と、頭上でヘリの音。果南ちゃんは「小原家でしょ」と、冷たく吐き捨てます。

 そのヘリに乗っているのが、マリーこと金髪美少女の3年生・小原鞠莉(おはら・まり)ちゃん。「ニネン、ブルィ、デスカ(2年ぶりですか)」と、たった一言でしたが、「ザ・伏線」とでも言うべき伏線セリフを吐いていました。

 ここまでで、公式サイトに紹介されているメンバー9人中、8人が登場しました。あからさまに拒否したり関係なさそうだったりする人もいますが、私たち視聴者は、彼女たちがメンバーに加わることを知っているわけです。この子、こんな態度だけど“転ぶ”んだよなぁ、とニヤニヤしながら眺める感じで楽しいです。3年生のダイヤちゃん、果南ちゃん、マリーの3人には、どうやら「スクールアイドル」にまつわる過去がありそうですし、ダイヤちゃんがスクールアイドルやコンテスト大会としての「ラブライブ!」に、やけに詳しいことも後述されます。

 これ、まんま『七人の侍』なんですね。最終的に9人そろうことはわかっていて、その過程を楽しむ感じ。つまり、千歌ちゃん=志村喬です。

 志村は飢饉と山賊に苦しむ農民に乞われて侍メンバーを集めますが、千歌ちゃんがメンバーを集める理由は一貫して「スクールアイドルになりたいから」であり、「輝きたいから」です。前作のような「廃校の危機を救う」という具体的な目的もありません。

 でも、その理由が単なる独りよがりに見えない。それがなぜかといえば、もちろん可愛い女の子の純粋な気持ちは必然的に応援したくなるというのもありますが、千歌ちゃんのやろうとしていることが「アイドル」だからなのだと思うんです。

 千歌ちゃんが心を動かされたのはμ’sのライブでした。歌って踊るμ’sの前にはペンライトを振る万来の観客がありました。その観客とは、間違いなく私たち視聴者です。侍たちが「侍だから」農民のために戦ったのと同様に、アイドルは常に観客の前で歌って踊る存在だから、私たち視聴者が物語からスポイルされないのです。私たちこそが、今回「Aqours」というグループを召喚した農民なのです。

 思えば昨今、飢饉や山賊に苦しむことはなくなっても、日々の退屈や不安から逃れることは決してできません。槍や弓矢で貫かれる機会はなくとも、ふと寂しさに胸を刺される夜も少なくありません。そんなとき、きっとアイドルという存在が、存在してくれているだけで私たちの心を守ってくれるのです。だから千歌ちゃんの「アイドルになりたい」「輝きたい」と視聴者の「応援したい」が、ぴったり同調するのです。

 第1話は、最後のメンバーである桜内梨子(さくらうち・りこ)ちゃんが、μ’sを生んだ音ノ木坂学院から転校してきたところで終了します。

『七人の侍』で、戦いを終えた志村はこう言いました。

「勝ったのは、農民たちだ──」

 前回、農民たちは、最終的には勝っていないような気もします(乳首的な意味で)。今回はどうでしょうか。第2話を待ちたいところです。
(文=新越谷ノリヲ)

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