渡辺恒彦『キミもまた、偽恋だとしても。①〈上〉』異世界は東京から電車で数時間? 

 渡辺恒彦『キミもまた、偽恋だとしても。①〈上〉』(オーバーラップ文庫)は、定番の投稿サイト「小説家になろう」で人気を得た『理想のヒモ生活』で話題になった作者の新作である。

 今回の作品は、地方都市を舞台にした、青春と恋の物語……かと思いきや「やっぱり異世界じゃねーか!」と思った次第である。

 物語の舞台は、関東圏の田舎町。主人公・村上政樹は、この地域にある設立されて間もない高校・私立岩下学園に越境入学してきた。

 この高校、ほとんどが地元民ゆえに、越境入学、それも、東京からやってきた政樹は、ほぼマイノリティ。なにせ、クラスメイトのほとんどは中学校からの知り合いなのだから。おまけに、政樹にはさらに自分がマイノリティになるのではないかという恐怖があった。というのも、政樹は中学生の頃から同人誌即売会にも熱心に参加し、オンラインゲームにも熱中してきたオタクだったのである。

 彼がこの高校を選んだ理由は、ここで特待生として入学できるなら、新しいパソコンを買ってやると両親にいわれたからなのである。

 そんな彼が出会ったのは、クラスの学級委員長である長嶋薫子。彼女は、地域の名士である旧家の生まれ。世が世なら「お姫様」なんじゃないかと誰もが尊敬やら羨望のまなざしを送る美少女である。そんな彼女に、政樹は「偽装恋人」になることを依頼される。その目的は、彼女の祖父が薦めてくるお見合いの話を回避するため。そのために、地縁のない政樹は、しがらみのない都合のよい相手だったのである。

 オタクであることを気づかれたくないという政樹と、実は隠れ腐女子の薫子。そんな2人の関係がひとつの軸となるわけだが、作中で政樹はとんでもないチートっぷりを発揮する。

 そもそも、特待生で入学しているあたりから、不穏(?)な雰囲気は流れていた。しかも、お付き合いしている相手として政樹に出会った薫子の家族は、大喜び。というもの、政樹自身も両親も知らなかったが、政樹はかつて、この地域を治めていた殿様の末裔だったのである! かくて、一族を集めて婚約式も行われ、後には引けない状態に。いやいや、いくらなんでも都合のよすぎる偶然だろう。

 おまけに、集まった一族との会話の中で、政樹は医学部を目指す程度に頭がいいことまで明らかになる。血筋も本人の実力も、どんだけチートなんだよ!

 そんなチートっぷりを発揮する政樹だが、その最強っぷりは前半で早くも披露される。「偽装恋人」のはずだったのに、政樹はいきなり告白をすっ飛ばして、ガチのプロポーズまでキメてしまうのだ。なんだよ、このコミュ力の高いオタクは!

 こうして始まる妙な恋人同士の物語。現代設定だけど、こりゃもう異世界だよな。
(文=是枝了以)

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