【実写映画レビュー】ありがちと思うなかれ、モテない男にちょっと辛い!?“すこし・フェミニズム”な『エクス・マキナ』

 この少し前のくだりでエヴァの姿が施設内の鏡に映るショットは印象的だ。自意識を備えた「オンナ」になるプロセスにおいて、鏡は必須アイテム。女子は鏡台なくして自意識を培えない。
 フランスの女性作家・哲学者にしてフェミニズム論者の大御所、シモーヌ・ド・ボーヴォワール(1908-86年)は、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な言葉を遺した。『エクス・マキナ』はSFという物語フォーマット上で、字義通りそれを実行したのだ。

 フェミニズムテイストは、エヴァが成し遂げようとする「社会的自立」という展開にも現れている。
 エヴァはAIの実験体のため、いずれは初期化されるという運命を背負っている。ロボットにとって、初期化すなわちデータ削除は「死」だ。

 開発者であるネイサンに生殺与奪権を握られ、箱の中に閉じ込められ、役割を終えればお払い箱になる、人間女性の似姿としてのエヴァ。これは、前近代的・家父長主義的な家庭に縛られる女性のアナロジーに他ならない。
 その状況に反旗を翻し、施設から脱出しようと奮闘するエヴァは、社会的呪縛や抑圧からの解放を求める女性の姿とも、ぴったり重なる。

 だからこそ……なのか、エヴァは最終的に「男性の助け」を必要としない意思表示をする。だから、エヴァを助けようと奮闘していたケイレブがクライマックスでどうなるのかは、かなり見ものだ。
 そして当たり前だが、エヴァはロボットなので生殖機能がない。彼女の存在意義に出産や子育ては含まれていないのだ。

 これらが何を意味するか。そう、エヴァは男性パートナーありきの「妻」としての役割も、我が子ありきの「母」としての役割も、いずれも担わない。文字どおり、身ひとつで社会(=研究施設の外)に飛び出そうとする。社会的に押し付けられた「女性の役割」にとらわれることなく、真の解放と自立に踏み出すのだ。

 もし本作に続編が作られるのなら、ぜひ観てみたい。結婚や出産が女性の人生にとって決してデフォルトではなくなった現代社会において、社会のいち構成員として生きる決意をした女性(エヴァ)は、一体どのような生き方を選択するのか?

 ……とまあ、少々風呂敷を広げすぎた感もあるが、少なくとも、どこぞの超大作アメコミSF映画なんかよりも、ずっと深刻で、ずっと論点が多く、ずっと2010年代に作られるべき必然性を備えたSF映画である。ここでの「SF」は、「すこし・フェミニズム」とでも読ませたほうが、しっくりくるのかもしれないが。
(文・稲田豊史)

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