『ムーム』日本初上映で元ピクサー・堤大介監督トーク 「経験豊富で確実にできる人より、できるかわからないけどやりたい人が成長する」

■スケッチトラベルのトリは宮崎駿監督 寄付金で各国に図書館を建設へ

1606_moom5.jpgスケッチトラベル

 堤監督は現在の活動に至る転機として、スケッチトラベルを挙げた。12年に画集として発売、13年に渋谷ヒカリエにてイベント「スケッチトラベル展 アフリカの子どもたちへ図書館を」が開催されたのを覚えている人もいるだろう。

 このスケッチトラベルは、ピクサーに所属する傍ら行っていたプロジェクト。「知人のジェラルド・ゲルレというフランスのイラストレーターの発案で、皆にスケッチブックに描いてもらって回したら面白いんじゃないかと。僕はやるんだったら知らない人にも渡したら知り合いが増えるんじゃないかって。そんな感じで始まったプロジェクトだったんです」(堤監督)

1606_moom6.jpgトリは宮崎駿監督(右)

 スケッチブックは4年半をかけて71人ものクリエーターが手がけたという。「手渡しルールというのがあって、郵送はダメだったので時間がかかったんです。最後の宮崎駿監督を含めて、大御所のアーティストが参加してくれたので、スケッチブックの価値が上がってしまいました」(堤監督)。スケッチブックに携わった日本人は、宮崎駿のほか福島敦子、松本大洋、森本晃司、清水裕子、丹地陽子、寺田克也、上杉忠弘がいる。

「オリジナルアートは印刷じゃないから、どれだけの価値があるものになったのかわかるわけです。僕らがそのまま持ってるよりもチャリティーとして寄付をした方がいいんじゃないかと思ったんですが、責任が生じるので寄付金がどのように良い形で使われるのか、どう寄付したらアーティストたちに恩恵があるのか考えたんです。プロジェクト自体がチャリティーとしてスタートしていないので」(堤監督)

1606_moom7.jpgこれまで図書館はスリランカ、カンボジア、ラオス、ベトナム、ネパール、ザンビア、インド、タンザニアで建設

 海外でも出版した画集や展示を含め、ロイヤリティーを寄付金として各国での図書館の建築費に充ててきた。その過程で『なぜ僕は絵を描いているんだろう?』という疑問が湧いたという堤監督は、「ピクサーで働いて、アニメーション界で毎日絵を描いて、仕事以外でも絵を描き続けて、幸せに絵を描くことを全うできていた」ところで、スケッチトラベルにも参加したロバート・コンドウに「自分たちの作品を作ってみない?」と話を振った。

■『ダム・キーパー』で得られた知見 ピクサーを辞めてトンコハウス設立へ

1606_moom8.jpg『ダム・キーパー』キービジュアル

『ダム・キーパー』の制作は、「“なぜ”の部分に答えられない自分に対して何とかしなければ」と始めることに。「本当にピクサーの目の前の建築事務所の物置みたいなところを格安で借りてたんです」と堤監督。「全員ボランティアで、好きな人だけ一緒にやりましょうという文化祭のノリですね。3カ月休みを取って、学生とか経験のない人でもハングリーに絵が描けるような場にしたい、アニメーションを作れるようになりたいって作ったんです」という思いからだった。

「僕らも監督をやるっていう新しい試みだったんですね。大学出たてと変わらない、自分たちもよくわからないけど、やれるかわからないけど勉強したいからってことでやってたメンバーです。絵は描けるんですけど、僕らの求めるレベルが高いわけですよ。そのレベルの映像を作るためには勉強ですよね」(堤監督)

1606_moom9.jpg『ダム・キーパー』の制作スタッフと

 その狙いは「やっぱり人間、一生懸命やってる時が一番成長するって言いますけど、経験豊富で与えられた仕事を確実にできるって人よりも、『できるかわからないけどやらせてください』っていう人の方が成長する確率が高いんですよ」との実感からだとか。「ピクサーにいた時でさえもその経験があるんですよね」(堤監督)。

 よく大規模な会社で陥りやすい「どこかで自分がやれることしかやってない」というジレンマ。「これだけ才能が揃っていて経験豊富なスタッフが揃っているピクサーでさえ、良い仕事をしないケースはいっぱいあるんです。プロフェッショナルなんで、仕事としては成り立つんですけど」(堤監督)。

『ダム・キーパー』のワールドプレミアはベルリン国際映画祭でのこと。「初めは映画祭に全然引っかからなくて、どうしようと思ったらベルリンで引っかかってプレミア上映になりました。最終的には100くらいの映画祭で上映されることになるんですけども、映画祭の世界は何で入選するのかとか賞をもらえるのかとか全くわからないですね」(堤監督)。

スケッチトラベル

スケッチトラベル

WOWOWかなんかでも、様子が放送されてましたよね

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