【実写映画レビュー】幾度も「金玉ヒュン」、同じ皿に並べられた不快と快感が交互に襲いくる古谷実原作の非情ホラー『ヒメアノ~ル』

 絶命と生殖、まるで正反対の行為を同じ皿に並べられているようで、観客は感情をどちらにチューニングしてよいか、わからない。目を覆えばいいのか、目を細めればいいのか。
 しかもご丁寧に、画面の構図までが対照的だ。四つん這いになっているふたりの女子が、一方のシーンでは撲殺され、一方は挿入されている。ちょっとした異常事態だ。

 しかも、実は森田という殺人鬼自体が、最大の「金玉ヒュン」要素だ。森田は卒業直前にいじめっ子を惨殺したことで、脅威を与えられる側から、脅威を与える側に堕ちた。これは半端ない“高低差”ではないか。

 物語後半は、森田による殺人が止まらない。しかも、殺される人間に殺される理由はない。ただ運悪く森田の近くにいただけ。ただ森田に邪魔だと思われただけ。森田は殺す理由を説明しないし、殺される側は命乞いする暇も、死ぬ理由について納得する時間も与えられない。

 どんなに人生を真面目に生きていても、突然殺される理不尽。それは、どんなに堅実に生きていても、津波や土砂崩れで一瞬にして人生を終わらされてしまう理不尽にも近い。この世の一寸先は闇なのだ。

 人は、いつなんどき、次の瞬間に「金玉ヒュン」、すなわち急降下するかわからない存在だ。人生は視界ゼロのジェットコースターであり、安全柵のない展望台のようなもの。絶命行為と生殖行為を交互に見せる監督の意図は、そこにある。

 人生という物語がずっと愉快なコメディだったとしても、いつホラーに豹変するかなんて、誰も予測がつかない。物語中盤で不意に出現した『ヒメアノ~ル』の題字に感じた、名状しがたい妙な不穏さの正体は、これだった――。

 さらに、本作には理由なき急上昇、いわゆる“逆バンジー”状態の「金玉ヒュン」も描かれている。それを体現しているのが、主人公の岡田だ。
 岡田には特に人間的魅力が見当たらない。容姿はぱっとしないし、向上心もない。器も小さい。何かに努力もしていない。一芸に秀でてもいない。
 なのに、なぜかユカに一目惚れされる。初セックスもうまくいく。ユカはごく普通の可愛い女子なのに、何の取り柄もない岡田に惚れるのだ。作中でその理由はいっさい明示されない。実に不気味である。

ヒミズ

ヒミズ

この頃の二階堂ふみは可愛かった

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