【実写映画レビュー】幾度も「金玉ヒュン」、同じ皿に並べられた不快と快感が交互に襲いくる古谷実原作の非情ホラー『ヒメアノ~ル』

1606_hime.jpg『ヒメアノ~ル』公式サイトより。

『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』(共に講談社)などで知られる古谷実のマンガ作品は、同じ作中にまったく正反対の要素を同居させることで、読者を激しく酩酊させてきた。
 下ネタ全開のギャグをかましたと思ったら、凄惨なホラー展開で人がガンガン死ぬ。戯れにすぎる冗談をまくしたてたあと、唐突に人生の真実がつぶやかれる。

 たとえて言うなら、これはいわゆる「金玉ヒュン」状態だ。ジェットコースターで急降下する際に感じる、超高層ビルのガラス張り展望台で下を見る時に感じる、アレ。激しい高低差を体感した時に催す、なんともいえない不安感と恐怖感。多くの人にとっては不快極まりない。古谷実の同名原作を吉田恵輔(※吉田の「吉」は「土に口」)監督が映画化した『ヒメアノ~ル』では、この「金玉ヒュン」状態が巧みに表現されている。

 主要登場人物は4人。なんの人生目標もなく無気力に清掃会社で働く岡田進(濱田岳)、そのダメ先輩である安藤勇次(ムロツヨシ)、岡田と交際を始めるカフェ店員の阿部ユカ(佐津川愛美)、岡田の高校時代の同級生である森田正一(森田剛)だ。
 物語は原作からさまざまに枝葉を刈り込まれてシンプルになっているが、概ね展開は同じ。サイコキラーの森田が繰り広げる、連続殺人の顛末を描く。

 最初の「金玉ヒュン」は、タイトル題字の出現タイミングだ。
 なんと、全尺の「ほぼ半分」に差しかかったところで、やっと『ヒメアノ~ル』のタイトル題字が初めて画面に登場する。通常の映画では、どんなに引っ張っても10分か15分以内であるところ、これは異例。戸惑わない観客はいない。

 しかも、それを機に演出のトーンはがらりと変わる。それまで、非モテな岡田&安藤と美少女ユカの三角関係を中心にユル〜く展開していたコント調のラブコメが、凄惨なバイオレンス&サスペンスへと豹変するのだ。ついさっきまで笑いを誘っていたムロツヨシのバカ面が、森田剛の狂気でドス黒く上書きされてゆく。
 観客はあっけにとられ、同時に、名状しがたい妙な不穏さを感じることになる。その正体は、この時点ではわからない。

 次の「金玉ヒュン」は、森田がかつてのいじめられっ子仲間・和草浩介(駒木根隆介)とその婚約者を、まとめて惨殺するくだりだ。
 観客はこのバイオレンスシーンを、同時刻に別の場所で行われている岡田&ユカのセックスシーンと“交互に”見せられる。血しぶきの数秒後には、佐津川愛美のエロい肢体が映しだされ、断末魔の叫びの直後に喘ぎ声が響く。もう、どうしていいやら。

ヒミズ

ヒミズ

この頃の二階堂ふみは可愛かった

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