今度は関東大震災は起こるよね? 期待と不安が渦巻く新作劇場アニメ『はいからさんが通る』──37年前の“打ち切り”の謎を追う

1606_haikara01.jpg『はいからさんが通る』(講談社文庫)

 だいたい40歳より上の人にとっては、嬉しいお知らせ。

 マンガ家・大和和紀氏の代表作『はいからさんが通る』の新作劇場用アニメーションが製作されることが発表され、注目を集めている。

『はいからさんが通る』は、1975年から『週刊少女フレンド』(講談社)に連載された作品。大正時代を舞台に、お転婆娘のヒロイン・花村紅緒と、祖父母の縁で許嫁になった金髪の陸軍少尉・伊集院忍の恋の行方を中心に描かれる人間ドラマだ。

 これまで、TVアニメ化と数度の実写ドラマ・映画化がなされ、連載終了後も多くのファンを獲得しているロングセラーである。

 とりわけ、1978年から放送されたドラマは、その後幾度となく再放送。平日夕方5時半、あるいは夏休み午前中などに観て知ったという人も多いはず。

 多くの人が憧れを抱く「大正浪漫」の原点となっているのは、この作品といっても過言ではない。誰もが、たまたま再放送を観たことで、大正浪漫に引き込まれていったのである。

 しかし、ここで気になるのは劇場版アニメの尺の中で、作品のどこまでを描くかということである。

 TVアニメ版を観たことのある読者は、漏れなく最終回で驚いたはずだ。「あれ、これで終わりなの?」と。

 物語の中盤、伊集院少尉はシベリア出兵に出征し、行方不明となる。生活能力のない伊集院家を支えるために雑誌記者となった紅緒は、ロシアから亡命してきた少尉と瓜二つのミハイロフ侯爵と出会う。

 侯爵こそ、記憶喪失となった伊集院少尉なのだが、果たして彼がいつ記憶を取り戻すのかというストーリーが続くものの、TVアニメは、なんだかよくわからんイメージが流れて終わるのである。

 原作では、関東大震災をクライマックスに据えて大団円を迎えるのだが、それらはバッサリカットされ、ぶつ切りのように終わったのである。

 いったい、どうしてこのような最終回になってしまったのか。放送当時の「アニメージュ」(徳間書店)1979年4月号に掲載された記事で、最終回を前にこの作品のプロデューサーだった根来昭氏のコメントが掲載されている。

 この中で根来氏は「もっとも残念なのは、予定より10本も早く終わってしまうことです」と語る。では、やっぱり打ち切りとなったために、ぶつ切りで終わってしまったのか。しかし、続くコメントで根来氏はそれを否定している。

「私たちスタッフは、いままで原作に忠実に、へんに咀しゃくしないで進行するペースで、その持ち味を生かしてきました。そのへんは、原作者の大和和紀さんも認めて下さっていたんですが、このまま進行すると途中で終わることになってしまうので、どうするか検討したんです(中略)たたみかけて終わって、いままで守りつづけてきた雰囲気をぶちこわしてしまってはなんいもならないということで、途中で終わることにしました」

 どうも、なんらかの原因で、当初の予定よりも10話早く終了することになったが、仮にその10話分をがあったとしても、原作通りに最終回を迎えるのは困難だったことがうかがい知れる。

 さらに、根来氏は続ける。

「大和さんも、途中で終わるのは残念でならないが、バタバタたたんで最後までいくよりは、ぷっつり途中で切ったほうがよいとおっしゃってくださいました」

 どこまで信頼してよいかはわからないが、一応は原作者も納得した最終回だった様子。

 ただ、コメントの末尾で根来氏は「余韻を残して終わらせるつもりですので、その点は、ファンの方もご安心下さい」と述べているのだが、これには異論を述べたい。余韻よりも驚きを感じたファンのほうが多いはずなのだから。

 実にこの作品、単行本では全8巻と短いように見えて物語が濃い。ゆえに映像化にあたってはかなり苦労する作品だろう。南野陽子が主演した1987年の実写映画版では、震災までは描かれたものの、かなりエピソードが削られ、急ぎ足で展開していたのを記憶しているファンもいるのではなかろうか。

 果たして、今回の劇場アニメでは限られた尺の中で、どこまで物語を描ききることができるのか。今から、期待と不安が止まない。
(文=ルポライター/昼間たかし http://t-hiruma.jp/

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個人的には南野陽子版が好き

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