そしてもう一人は、『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)に続き、身体障害者の孤独な生き様を活写する長編ルポルタージュを刊行すべく、鋭意取材活動中のルポライター・昼間たかし。
筆者とは幾分違った経緯ながら、森とはロフトプラスワンを通じて10年ほどの交流を続けているという。マスコミ試写後の賑わうカフェで感想を伝えてくれたのだが、改めて『FAKE』の作品評を寄稿してくれた。
* * *
すでにさまざまな識者が執筆している映画評では、佐村河内本人のことよりも、佐村河内の妻に焦点をあてたものを多く見かける。
そうした評者は総じて、妻を本当の主役だとか論じている。しかし、私が感じたのは、その先にあるもっと深遠なものだった。
映画の中盤、佐村河内の耳が聞こえているのか否かといった問題がどうでもよくなった頃。筆者も多くの識者がそうであるように、焦点が佐村河内本人から、妻へと移っていることに気づいた。それは、森が佐村河内と妻との夫婦間の利害関係を超えた共犯関係に気づいたからだろうか。そうではない。森は気づき、動揺してしまったのだ。
日常の生活だけではない、佐村河内の存在のすべてが妻の支えがなくては成立しえないこと。
自分もまた、そうした人生を送ってきたがゆえに、森は自信の人生を佐村河内に見てしまったのである。
森だけではない。映画を観た多くの識者も同様だったであろう。物書きからドキュメンタリーまで、表現の手段は数多あれど、その多くは家族や近親の犠牲の上に成り立っている。周囲に支えられ、迷惑をかけ、それを原動力として表現を生業にする者は、ようやくスタートラインへと立てる。
たとえ、耳がどうだろうと自分で作曲をしていなかろうと、佐村河内もまた一人の表現者だったのである。
それに気づいた森は取材する者とされる者の境界を越え、佐村河内に手を差し伸べる。それが、結実したラストの12分。
森が述べる最後の言葉は、自分自身に問いかけるものだったのだろう。
試写会の後に、これは一種の夫婦愛の物語ではないのか? と問うた筆者に森が「そういった論調の記事だと、とてもうれしい」と答えた時、予断は確信となった。この映画は、世に何かを送りだして日々の糧をえようとする人の、もっとも痛い部分を突いている」
失意のどん底にあった佐村河内守に、さりげなく寄り添う彼の妻。そんな2人が奏でる、夫婦の絆を記録したドキュメンタリー映画究極の傑作『FAKE』。
最後に、森が筆者に伝えてくれたメッセージを掲載しておきたい。
「何が真実か否かは、最初からわからない。文章は直接話法なのに対して、映画は間接話法。文章じゃなく映像にしようとしたのは、色を決めたくなかったからです」
(取材・執筆・構成/増田俊樹・昼間たかし事務所)
『FAKE』
<スタッフ>
監督:森達也 プロデューサー:橋本佳子 撮影:森達也/山崎裕 編集:鈴尾啓太
<キャスト>
佐村河内守
6月4日よりユーロスペースにてロードショーほか全国順次公開
公式サイト
http://www.fakemovie.jp/
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