アニメやマンガばかり観ているドキュメンタリー童貞諸君に捧ぐ! 衝撃はラスト12分間だけじゃない映画『FAKE』

 あれはもう、15年ほど前の出来事だろうか? 『A』や『A2』を鑑賞した際の強烈な体験が、まるで昨日のことのように、今も脳裏に焼きついている。当時の筆者はロフトプロジェクトの映像部門に在籍して、主にドキュメンタリー映像の制作をしていた。あるとき、ロフトプラスワンにたびたび出演されていた社会学者の宮台真司が、必ずや今後の表現活動の糧になるからと言って、東京都立大学(現在の首都大学東京)の講堂で開催される、『A』の上映会へと熱心に誘ってくれたのだった。

 そんな縁もあってか、上映後に行われた懇親会で森達也を紹介されたのだ。鑑賞後の興奮状態に酔いも手伝って、散漫な意見を交えた筆者の感想を森は黙って聴いてくれた。

 そして帰り道、一枚の試写状を手渡された。後日、ロフトプロジェクトのフリーペーパー『ルーフトップ』の担当ページで映画評を執筆しようと考え、マスコミ関係者が席を埋める試写室の片隅で『A2』を鑑賞した。

 本編では、教団排除を訴える近隣住民や活動家の勢いにズルズルと引き込まれ、それらの苦渋に満ちた表情がスクリーンに登場するたびに、年季を積んだ俳優が束になっても再現が不可能なほどの底知れぬリアリティを感じ、ただただ圧倒されてしまったのだ。

 試写後も相当な余韻を引きずったまま、一人ロビーに呆然と立ち尽くしていた。そんな様子に気づいた森から呼びとめられ、握手をして頂いた感触から、ようやく現実に引き戻されたという過去の痛烈な記憶もよみがえってきた。

 映画の仕事を志し、悪戦苦闘の日々を送っていた当時の筆者にとって、森のドキュメンタリーはなんともショッキングであった。

 だが、森の作品がきっかけで、脚本を何度も読み直し、台詞を正確に覚えるという行為に執着していた強迫観念から、正直解放されたのは紛れもない事実であった。そしてこの先、劇映画の世界で通用しなくとも、臆することは一切やめようと考えた。

 まるで行き当たりばったりのように見えて、必ずや心の奥底に深く突き刺さってくる森の鮮烈な映像表現に魅了されて以来、密かに森達也の演出スタイルを模倣してきたのだ。

 後年、「素人の乱」をモデルとした劇映画の演出を担当した際には、思いつきからJR高円寺駅前の噴水広場を雑多な出演者で占拠して、予測不能なゲリラ撮影に身を投じて困難なシーンを勢いで描いてしまったり、「桃色ゲリラ」の活動を追ったドキュメンタリー映画の撮影を依頼されると、翌日からハンディカメラ持参でメンバーを撮り続け、防衛省や柏崎刈羽原子力発電所での最前線抗議活動に際しては、執拗に阻止されようとも応戦して撮影を続行したのだった。

 森から影響を受けたそれらの作品は、幸運にも渋谷区円山町のユーロスペースにて順次劇場公開されたのだった。

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