『その姉妹はたぶん恋する葦なのだ』(紺矢ユキオ) 叙情的な描き方がたまらない 危うすぎる叔父と姪との禁断の関係…

 危うすぎる恋愛模様に、羨ましくもあり切なくもなる。先頃、第1巻が発売となった紺矢ユキオ『その姉妹はたぶん恋する葦なのだ』(KADOKAWA)は、叔父と姪との近親相姦も交錯する純愛劇である。

 物語の主人公・草薙蜂彦の家はラーメン屋。そこに新しくバイトとして入ってきたのは、クラスでも評判の美少女・足羽かなえだった。

 かなえは、なんらかの事情でお金が必要なため高校生と偽ってバイトをしていたのだ。秘密を共有することになった2人は微妙な関係ながら、お互いの事情を少しずつ知っていく。

 その中で明らかになるのは、かなえが、姉・ひまりと共に足羽荘という下宿に叔父・道隆と共に暮らしていること。

 道隆の職業はマンガ家。それもエロマンガで、主人公が中学生と高校生とひとつ屋根の下に暮らす純愛もので人気を得ていた。エロマンガを生業としながらも、純粋な人物だと思われている道隆が実際に姉妹と暮らしていることを知る者はいない。

 そんな奇妙な叔父と2人の姪。かなえと多くの時間を過ごすことになった蜂彦は、次第に彼女の奇妙な行動が気になり始める。それは、彼女が姉と叔父とに気を使って家に入ろうとしないこと。そして、かなえはついに蜂彦に告げる。

「間違いが起こるのを待ってるの二人とも」

 さらに、かなえは「私は邪魔なの」と語るのであった。そう、道隆はマンガを描くにあたって、ひまりをヌードモデルにしていたのだ。しかし、ひまりは、その関係に満足はしていない。

 そんな奇妙な関係に加えて、かなえの回想の中で語られるのは、過去の何かの事件で住んでいた村を出ていったということ。

 物語の主人公である蜂彦とかなえは中学2年生という設定。その年齢にしては重すぎることが降りかかってくるのである。

 そんな事実が読者に提示される一方で、カメラに熱中している蜂彦は、ひまりを撮影してみたいと情熱を燃やしていく……。

 ともすれば、ドロドロになりそうな物語は、あくまで爽やかな青春譚のごとく淡々と描かれていく。今にも一線を越えそうな叔父と姪の間にも情念はなく、なんとも儚げな描き方をしているのが印象的だ。

 この第1巻は、複雑な人間模様の全体像を提示したプロローグともいえる。これから待っているのが悲劇なのか、喜劇なのかは予想もつかない。ただ、明らかなのは、登場人物のいずれもが悪意のない純粋さゆえに、運命に翻弄されていることであろう。

 近親相姦までをも扱いながら、ここまで叙情的に描けるなんて、一種の詩ともいうべき作品である。
(文=是枝了以)

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