『生贄投票』(葛西竜哉・江戸川エドガワ ) ハメ撮り、自撮りがネットに次々拡散される社会的な死 

2016.05.29

 果たして「出オチ」にならず、テンションを保つことができるのか。『eヤングマガジン』に連載中の原作:葛西竜哉/作画:江戸川エドガワ『生贄投票』第1巻を読んで、そう思った。

 この作品は、ある日クラスメイト全員に送られたアプリによって始まるサスペンスだ。

 物語のヒロイン・美奈都をはじめ、クラスの男女36人のスマホに勝手にDLされた謎のアプリ「生贄投票」。そのアプリは、そこに記された自分以外のクラスメイトを生贄として投票しろと要求する。投票で選ばれた人物は、24時間以内に課題がクリアできなければ社会的な死が与えられるというのだ。

 全員が、イタズラだとバカにしている中で、アプリから送られてきた最初の生贄は、クラスの女王様。助かるために与えられた課題は、24時間以内に生贄本人は10万回、ほかのクラスメイト全員が各1万回ずつスマホをタップしろというもの。全員が「タップするよ」と協力しながら、深夜にアプリが表示した「進捗状況」は、ほとんど誰もタップしていないことを示していた。

 こうして次々と生贄は選ばれ、社会的に抹殺されていく。クラスの女王様は彼氏とのハメ撮り映像を、人気者の男子は母親相手にアナルにバイブ挿入されて楽しんでいる動画をネットに拡散されてしまう。

 投票から逃れようとガラケーにすれば、アプリによって罰として生贄に選ばれる。さらに、多数派工作で生き残ろうとする者は、裏切られて自分が生贄に……。

 このように、次々と不信の渦巻く中で、ひとり、またひとりと社会的に抹殺されていくのだ。

 いったい、このアプリは誰が動かし、その目的はなんなのか? それは次第に明らかになっていくだろう。

 その一方で、気になるのはネットに拡散されるクラスメイトたちを社会的に抹殺するための映像。初っぱなのクラスの女王様は、ショックのあまり道路に飛び出し、車にはねられて肉体的にも死を迎えた。だが、次第に社会的な死になってしまう映像が凡庸になっている感が否めない。何しろ、どれもセックスとか万引きの瞬間の類いなんだから。

 仕事人系マンガが、途中から敵対する組織やライバルが登場してバトルへと変化していくように、こうした生き残りを賭けたサバイバル要素のあるサスペンスにも、一定のお約束がある。どうやっても、最初の2、3人の犠牲者のインパクトを頂点に、あとは下がっていくだけなのだ。そこで、物語のテンションを保つために必要なのは、いかにしてスムーズに謎解きへと変化していくか。

 マンガだけでなく映画やゲームでも、あるいはサスペンスに限らずホラーなど、さまざまな作品で似たようなシチュエーションはあった。

 思うに良作に共通しているのは、いかに生き残る人数を減らす=登場人物を殺すかである。謎が解けていく過程でも、どれだけ惨劇を続けることができるかに、この作品の行く末もかかっているだろう。

 これからの展開に期待だ。
(文=是枝了以)

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