【新連載】アイドルの処方箋 第1回

あの日、戸惑ってしまったファンの好意への対応…「私が地下アイドル業界から肯定されたように、私もファンの人を肯定したい」

160523_himeno02.jpg地下アイドルとして活動する私の思いです。

 数年ぶりに、ある男性と会った。顔を見るのは3回目で、前に会った時は2回とも、同人系の即売会だった。恐らく、無料で入場できて、地下アイドルやコスプレイヤーの女の子がいるイベントに顔を出しているのだと思う。

 彼はいつも、いろんなテレビ局の名前を書いた紙の切れ端を握っている。文字は隙間なくびっしりと書かれていて、大きな声でそれを音読しながら歩く彼を、人々は見えないふりをして遠ざけながら通りすがっていく。

 彼はファンの人と話している私を見つけると、ずいずいと音読しながらこちらへ近づいてきた。そして並ぶということをせずに、私とファンの人の間に割り込み、「サインお願いします!」と大きな声で言った。ものすごい至近距離に、私よりもファンの人が呆然としている。事務所に所属しているアイドルなら、間違いなくスタッフが引き剥がしている状況だ。

 私はファンの人に目で謝りながら、サイン帳を受け取った。こういう時に、割り込まれたからといって騒いだり怒ったりするようなファンの人はいない。地下アイドルのファンは、空気を読む力と、コミュニケーション能力が異様に長けているからだ。サイン帳にもびっしりとテレビ局の名前が書かれていて、その周りに、かつて同じ状況になったであろう地下アイドル達の戸惑ったサインが小さく書かれていた。私も隙間を見つけてサインしてから、サイン帳を返すと、「こちら茨城テレビからアナログで放送しています!」と、元気な声が返ってきた。彼にとっては、受信料のサインみたいなものなのかもしれない。久しぶりに、「電波系」という単語が頭に浮かんだが、それ以外は何も思うところがなかったので、微笑んだ。こういう時に一番良い対応は、すべてを受け入れることだと私は思っている。

 しかし次の瞬間、彼は心配そうに見つめていたファンの人に、自分のケータイを押しつけ、私と写真を撮ろうとしたので少し動揺してしまった。割り込みを許した上に、ファンの人の手まで煩わせるのは心苦しかったからだ。とりあえず笑顔で写真に写ろうと思ったが、ファンの人も動揺したのかうまくシャッターが押せず、彼が「ボタン間違えてるんじゃないですか!?」と、乱暴にケータイをひったくったので、つい私も、「それはダメです」と彼の行動を否定してしまった。

 ファンの人に迷惑をかける前に、もっと対処できたのではないかという気持ちと、彼を否定してしまったことに動揺していた。こういう人は否定されると、突飛な行動に出る傾向がある。

 彼は私にぐいっと近づき、後ずさった私に小さな声で、「たまちゃんのおっぱい吸ってもいいですか?」と言った。私は後頭部が冷たくなるのを感じて、咄嗟に、「お引き取りください」と言い返した。7年間地下アイドルをやっていて、ここまで冷たく人に接したのは初めてのことだった。自分が悲しかった。

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