ポルノに表現の自由なんてあるのか? ナイジェル・ウォーバートン『「表現の自由」入門』

 そこで記される内容は、翻訳書ゆえに日本国内ではあまり気にも留めなかったが、実は重大な価値を持つものが多い。例えば、ポルノグラフィの項では、最近は知る人も増えたポルノによる女性への社会的危害を主張するキャサリン・マッキノンの主張と、それに反対するフェミニズムの双方を取り上げている。

 だが、ここで注目すべきは、その前にハードコア・ポルノ(註:実際の性行為を扱うもの。日本ではアダルトビデオが該当する)が、言論の自由に該当するか否かという議論が存在することも紹介していることだ。

 ここでは、ハードコア・ポルノがセックスの補助具の役割でしかないとする議論も紹介した上で、著者は「ハードコア・ポルノを含むポルノは、時には思想の市場に入ることを許されるべき思想を表明できる」と記す。

 ポルノグラフィの問題に限らず、ヘイトスピーチなど、本書の中で取り上げられている項目の中で、著者は一貫して「表現の自由」を語るにあたって個人的な感情や道徳観を排除した上で、いかなる制限が課されるべきかが重要であることを記している。

 そして、その制限がいかなるものであるべきか。本書の中で著者は結論を示さない。というのも、個別の事象によって状況はまったく異なるからだ。とりわけ、戦時下において国家機密の漏洩やサボタージュを行うような表現に対して、著者は否定的に見える。とはいえ、それもまた、どのような形で規制されるべきか、さまざまな議論があるだろう。

 少なくとも「表現の自由を守る」という言葉には、いくつものウソが隠れている。その上で、どうするかを考えるための一冊だ。
(文=昼間たかし)

「表現の自由」入門

「表現の自由」入門

「表現の自由」とは何か……?

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