カルトなエログロ漫画家・丸尾末広の代表作『少女椿』をめぐる謎を探ってみた!! “薄幸系美少女”綾波レイのルーツか!? 

2016.05.21

初の実写映画となる『少女椿』より。ファッション誌で活躍する人気モデルの中村里砂が薄幸美少女・みどりちゃんを演じている。

 レトロな画風でエログロな世界を描くことで知られる漫画家&イラストレーターの丸尾末広氏。『パノラマ島綺譚』『芋虫』(エンターブレイン)など江戸川乱歩の小説のコミカライズ版は、読者に極上の悪夢を体験させてくれた。そんなカルトな人気を誇る丸尾作品の中で、初期代表作といえるのが1984年に単行本が刊行された『少女椿』(青林堂)だ。父親に棄てられ、母親は病死、身寄りがないためサーカス団に引き取られるも、団員たちのイジメに遭い……とこの世の不幸を一身に背負った美少女・みどりの数奇な青春を描いている。

 サブカル系の人々に『少女椿』は愛され続け、ヒロイン・みどりちゃんは薄幸系美少女のアイコンとして今なお人気が高い。過去にはアニメーション化されたこともある『少女椿』だが、人気モデル・中村里砂の主演作として初めて実写映画化された。不幸のドン底にいるみどり(中村里砂)がサーカス小屋で出会うことになるのが、小さなガラス瓶の中へ自在に出入りする妖しい魔術の使い手・ワンダー正光(風間俊介)。ワンダーの寵愛を受けるようになったみどりは、それまでイジメ続けられていたサーカス団での立場を逆転させることになる。

 ファッションデザイナー&アートディレクターとして活躍する女性監督・TORICOが手掛けた映像は、チープさとポップさがごっちゃになった極彩色の世界で、丸尾ワールドを実写化するのに相応しいものとなっている。団長・嵐鯉次郎(中谷彰宏)率いるサーカス団の顔ぶれのいかがわしさに加え、映画の後半は原作にはなかったオリジナルな展開が待っており、不幸を呼ぶ少女・みどりに惚れてしまった奇術師・ワンダーの哀れさを風間俊介が巧みに演じている。

 不思議な魅力を持った『少女椿』だが、原作者の丸尾氏自身も謎めいた存在。長いキャリアを誇り、ネームバリューもあるアーティストだが、マスメディアにはほとんど姿を見せない。一体、どんな人物なのだろうか? 映画『少女椿』の宣伝スタッフに尋ねたところ、「私たち宣伝スタッフも、丸尾さんにはお会いしていないんです。TORICO監督は打ち合わせで何度か会われていますが、寡黙で多くは語らない方だったようです」。なるほど、そのほうが作品のイメージにぴったりだ。

 TORICO監督が権利元に実写化の交渉をした際には、過去に何度も映画化(実写化)の企画が持ち上がったものの、そのたびに立ち消えとなっていたことから、「今回もなくなってしまったら、丸尾先生はものすごくがっかりされる。だから、(もし映画化の権利を得ることが出来たら)必ず実現してほしい」と担当者から頼まれたそうだ。「なんとしてでも実現させます」と約束したTORICO監督は、7年がかりで完成に漕ぎ着けた。初号試写には丸尾氏も来場し、鑑賞後はコメントを発することはなかったものの、TORICO監督の手を黙って握って、うれしそうな表情で去っていったという。アーティスト同士、口を開かなくても作品を通して分かり合えるという、ちょっといい話。

 もうひとつ、『少女椿』をめぐる謎を追ってみた。『新世紀エヴァンゲリオン』の人気キャラ・綾波レイのルーツは『少女椿』のみどりだという説がネット上で流れている。サーカス小屋で暮らすみどりちゃんとSFアニメの金字塔『エヴァ』の綾波レイはどう繋がっているのか? ネット上の情報を調べてみると、『エヴァ』のキャラクターデザインを担当した貞本義行氏は、ロックバンド・筋肉少女帯のアルバム『断罪!断罪!また断罪!!』の収録曲「何処へでも行ける切手」からインスピレーションを受けて、綾波レイを生み出したそうだ。また、筋肉少女帯の大槻ケンヂは『少女椿』のみどりちゃんをイメージして「何処へでも行ける切手」を作詞したらしい。『エヴァ』→筋肉少女帯→『少女椿』という三段論法によって、「綾波レイのルーツは『少女椿』のみどりちゃん」という説が成り立っていたわけだ。「何処へでも行ける切手」では“包帯で真っ白な少女”と歌詞に歌われており、『エヴァ』の綾波レイといえば全身包帯姿での初登場シーンがインパクト大だった。大槻ケンヂは処女小説『新興宗教オモイデ教』(角川文庫)の表紙イラストを丸尾氏に依頼するなど、丸尾氏の大ファンであることでも知られている。この噂、かなり信憑性ありそう。映画宣伝スタッフいわく「みどりが綾波レイのルーツだという噂は、私も耳にしたことがあります。でも、こちらではその真偽はちょっと確かめようがないですね」とのこと。それならば、『少女椿』のみどりちゃん、『エヴァ』の綾波レイという2人の美少女を結ぶ、筋肉少女帯の大槻ケンヂに真相を聞けないものか。

 この件を当たってみたが、大槻ケンヂは声帯のポリープ除去手術を受けた直後でもあり、直接取材は叶わなかった。残念ながら真相を確かめることはできなかったが、同時にちょっとホッとした。調べていくうちに、謎は謎のまま残しておいたほうが面白いんじゃないかと思うようになっていたからだ。薄幸系美少女・綾波レイのルーツは、『少女椿』のヒロイン・みどりちゃんだったのかもしれない。孤独な美少女たちには、目には見えない不思議な繋がりがあったのかもしれない。そんな視点から、現代に甦った映画『少女椿』を楽しむのも一興ではないだろうか。
(文=長野辰次)

全身から不幸オーラを漂わせるみどり(中村里砂)に、どうしようもなく男たちは引き寄せられてしまう。

『少女椿』
原作/丸尾末広 監督・脚本/TORICO 出演/中村里砂、風間俊介、森野美咲、武瑠(Sug)、佐伯大地、鳥居みゆき、深水元基、中谷彰宏、漆崎敬介、マメ山田、鳥肌実、手塚眞
配給/リンクライツ R15 5月21日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかロードショー
(c)2016『少女椿』フィルム・パートナーズ
http://www.vap.co.jp/s_tsubaki

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