『マトリックス』の世界が現実に!? 擬似“重力”を生み出す画期的“VRスーツ”が鋭意開発中!

2016.05.18

「Gizmag」より。

 すっかり身近になったともいえるVR技術だが、現状では人間の視覚と聴覚に与える影響に特化した技術だ。しかし、触覚や身体感覚にも波及するVRガジェットの開発も着実に進んでいるようである。

■感触と熱の変化を再現する“VRスーツ”

 いろんな意味で未来のVR技術を予見していたとも言える映画『マトリックス』(1999年)。東洋風の道場を再現したバーチャル空間が現れ、そこで格闘技の特訓が繰り広げられるシーンも印象的だったが、当時は『バーチャファイター』などの3D対戦格闘ゲームがはやっていたこともあり、映画のこのシーンはまさに未来のVR格闘ゲームを占うものとしてゲーム好きの間でも注目されていた。

 そして次世代VRゲーミング元年を迎えた今日、まさに『マトリックス』の格闘シーンがグッと現実に近いものになってきたようだ。『マトリックス』のようにVR空間をまさに“体感”できるカギとなる技術が“VRスーツ”の開発が着々と進んでいる。

 米・ワシントン州ベルビューに拠点を構えるVR機器デベロッパー、AxonVRは現在、本格的なVRスーツである「AxonSuit」の開発に余念がない。ご存知の通り、VRグローブやVRジャケットなどはすでに各社から登場しているが、このAxonSuitはそれらとは一線を画すガジェットのようである。

「AxonVR」紹介動画 「AxonVR」より

 一見ライダースーツのようなツナギのようだが、全身を覆うこのAxonSuitは上半身のジャケット+グローブと、下半身のパンツ+ブーツに別れた2ピースのスーツだ。いったん着用した後に、コネクター経由で上下のピースを接続するようだ。

 画期的なポイントとしては、まずは新開発のAxonSkinと呼ばれる“肌着”があげられる。直接皮膚に接するフレキシブルなこのインナーは感触と熱の変化を再現する。蝶の羽の手触りから殴られたときの痛みまで、幅広い感触をもたらしてくれるということだ。全身丸ごとVR空間に没入するための新技術が、このAxonSkinという新素材なのである。

■擬似的な“重力”を生み出す「AxonStation」

 しかしこれだけでは高性能なVRスーツという範疇を出ないものになるだろう。このAxonSuitのシステムには、ベースとなるシミュレータである「AxonStation」が用意されているのだ。

 モーションシミュレータのアームに取り付けられた外骨格部分は「AxonSkeleton」と呼ばれ、AxonSuitを着用した状態でこの外骨格の中に自身のボディを“セット”すれば、見た目上はまさに宙に浮いた状態になる。しかし装着している本人の身体感覚はそう単純ではない。外骨格やスーツから圧力を加えることで、擬似的な“重力”を生み出すことができるのだ。

 したがって、自身の身体を機器にセットして、はたから見れば宙に浮いている状態でも、VR空間の中では例えば様々な地形の上を歩いたり、ジャンプしたりといったことが機器を通じて“体感”できるのである。これまでも地面が動く“トレッドミル型”のVRシミュレータ機器はあったが、このシステムはそれらとは設計の発想からして大きく異なる画期的なVR機器であると言えるだろう。

 もちろんネックとなるのはAxonStationの大きさと、それなりの価格になることは明らかなコスト面だろう。家庭用のコンシューマ製品としてすぐに普及するとは現状では到底思えない。

 そこで同社は、まずは各種のアミューズメント施設やゲームセンターへの導入を想定しているということだ。スキー場のようにVRヘッドセットとVRスーツはプレイヤーが持参してもいいし、スーツ一式を貸し出したりしてもよさそうだ。ビデオゲームのほかも様々な活用が考えられ、例えば実際に足を地面に着けなくて良いことから、脚を負傷した後のリハビリテーションにも活用できるという。

 また、軍隊の訓練やアスリートのトレーニングといった用途も考えられているという。さらに今後は、同時に本格的なFPSやスポーツゲームの開発にも繋がることだろう。様々な可能性を秘めたAxonSuitのシステムが実際に登場するのはもう少し先のことになるが、きっとその頃にはVRゲーミングも今よりさらに充実しているに違いない。今後のVRゲーミングへの期待が膨らむ話題がまたひとつ加わったと言えそうだ。
(文/仲田しんじ)

【参考】
・Gizmag
http://www.gizmag.com/axonvr-virtual-reality-suit/43179/

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