「守り方」を伝授する本じゃないよ。実存を問われる危険な一冊──山田太郎『「表現の自由」の守り方』

 では、そうではない人にとってはどうかというと、ここ数年の出来事の概説を再確認することを除いては、あまり役に立つ本ではない。

 なぜなら、本書は「表現の自由」を軸にして思想を記すものではなく、実業界で実績のある山田氏が山田議員となり国会で得た自信の成功体験に基づくテクニックを記した本だからである。

 いうなれば、たまたま扱っているのがオタク文化であり「ベンチャー企業の成功者が、国会議員をやったらこうなった」というのが本筋だからである。

 さらに砕けた物言いをするならば、この本がリアルに役立つのは、現体制の中で政治、行政の世界、あるいは実業界、アカデミズムの中で身を立てつつ「表現の自由」の問題に興味がある極めて限られた人くらいだろう。

 冒頭で「読み手の実存が問われ」と記したわけだが、毎日膨大に出版される本の中から、840円+税を出してこの本を選んだ時点から「あなたはどうしたいんですか?」問われているわけである。そうした意味で、本書は相当に危険な一冊なのである。

 もちろん、読む前から実存云々とか小難しいことを考える人なんて、まれだろう。だから、大多数の読者は読みながら、そこに登場する人物や出来事との対話を繰り返していくことになる。その過程で、なんの因果か「表現の自由」なるものに興味を惹かれてしまった自身の来歴を考えつつ、自分は何をすべきかを考えるのが、本書のもっともスタンダードな読み方であろう。

「表現の自由」なんて体制内で一握りの特権階級だけが語るものじゃない。世の中をアッといわせて、見知らぬ他人の人生を狂わせるような表現をする、あるいは単身決起する……すべては表現の自由の守り方である。

 本書のプロローグでは、最悪の未来図を想定したフィクションが記されているわけだが、この部分だけでも、共感する人もいれば、随分と心の弱いヤツだと嘲笑する人もいるだろうし、爆弾でも抱えて立ち上がればいいんじゃないか等々、さまざまな感想を持つのではなかろうか。本書の読者に求められているのは知識を得て満足することではなく、次に自分が何をなすべきか考えることである。

 表現の自由の守るために社会を変えたいのか、世の中を変えたいのか……誰もがさまざまなことを考える一冊であることは間違いない。
(文=昼間たかし)

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