「守り方」を伝授する本じゃないよ。実存を問われる危険な一冊──山田太郎『「表現の自由」の守り方』

 平易な新書のフリをしているが、決してそんなことはない。むしろ、読み手の実存が問われ、どこに旗を立てるかでまったく印象の異なる、けっこう難儀な一冊である。

 まず重要なこととして、タイトルに「守り方」とあるけれども「守り方」を教えてはくれない。

 児童ポルノ法をはじめ、TPPなどマンガやアニメにおける表現の自由やコミックマーケット、二次創作をめぐる問題に興味のある奇特なオタクにとっての英雄・山田太郎参議院議員。『「表現の自由」の守り方』(星海社新書)は、繰り上げ当選で国会議員となって以来、マンガ・アニメ・ゲームを守るために戦ってきた同氏の記録ともいえる一冊である。

 本書の中では、児童ポルノ法、TPPと著作権非親告罪化や、国連からの勧告、軽減税率と有害図書など、過去3年あまりの表現の自由をめぐるさまざまなトピックスについて語られている。

 新書というスタイルである以上、初学者にもわかりやすく平易に語っているかといえば、そんなことはない。もちろん、文章が小難しいわけではない。けれども、山田議員のいつもの語り口のごとく膨大な情報、一つでも多く知ってもらおうというサービス精神そのままに、さまざまなテーマが駆け足で扱われていく。ある程度、インターネットなどを通じてこの問題に興味を持ち知識がなければ、途中でお腹がいっぱいになってしまう可能性もある、ちょっと危険な本ともいえる。もっとも、その満腹感の先には満足感もあるのは間違いない。

 ただ、もしも「表現の自由」を守るためにどうすればいいのだろうか? と漠然と考えている人には、必ずしもお勧めできる本ではない。

 なので、読む前にまず目を閉じて考えたほうがよい。

 もしも、あなたがそれなりの学歴、財産、あるいは誰もが知っている会社でそこそこの地位がある。もしくは、影響力のあるベンチャーを創業したり勤務している。あるいは、世間の誰もが知っているような作品の作り手である。あるいは、政治家になったり官僚になったりだとかで立身出世をしようとしている。あるいは、それを志している……

 すなわち、現在の日本国の体制下で、なんらかの手段で権力の中枢に一歩でも近づこうとしているのならば、この本は読む価値がある。

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