新井ちか役の工藤夢心も、初舞台組のひとり。もっと緊張した表情を見せるかと思いきや、堂々としていて、どこか素っ気ないながら優しい内面を持つ、複雑な役どころをサラリと演じていた。風組・光組両方のいずれのゲネプロでも安定した演技だった。しかし本人は、終了後の会見で自らの演技に納得がいかないらしく、修正して本公演に挑むことを誓っていた。なかなかのストイックさを見せていたように思う。
余談にはなるが、工藤は今春までavexのアイドルプロジェクト「iDOL Street」、サッポロ Snow♥Loveitsのリーダーを務めていた。風組のゲネプロが行われた5月4日は 同じグループから卒業した、吉本ほのかが初舞台を踏む『アリスインデッドリースクール オルタナティブ・SAPPORO』の公演初日でもあった。また、iDOL Streetの新しいアイドルグループ「わーすた」のメジャーデビュー日も同日。この「わーすた」にもSnow♥Loveitsで共に過ごした小玉梨々華がいる。それぞれの場所で、スタートを切ったこの日がファンにとって特別なものになったのではないだろうか。
ここで改めて、本作のテーマの重さを振り返ると、AKANEが初めて台本を見た時に「若い女の子たちがやる芝居ではない」と感じたのももっともだ。ただ、過渡期である「高齢化社会」を超えて、すでに「高齢社会」そのものになっている日本の中で、認知症とその治療については、誰にとっても他人事ではない。
筆者自身も同居していた祖母が認知症と診断され、晩年までの「次第に消えていく彼女」を見て過ごした。若くして両親を失い、戦禍をくぐり抜け、それでも気高く生きて来た祖母が少女の様になっていく、それは不思議で悲しくて、でもどうしようもない日々だった。せめて「さようなら」の時くらい孫で居たかった。
ゴールデンウィークに帰郷して、両親や祖父母に会ったという方も多いのではないだろうか。「会って話せるうちに会っておこう」。本作を見た直後に思い浮かんだのが、この言葉だった。重く難しいテーマの作品と感じる方もいるとは思うが、本質はいたってシンプルなことなのかも知れない。『みちこのみたせかい』を観ながら、大切な人のことを思い出す。ただそれだけの時間がとても幸せに思えた。
(文・写真/矢口 明)
■アリスインプロジェクト 舞台『みちこのみたせかい』
公式サイト:http://alicein.info/
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