『名探偵コナン純黒の悪夢』“20作記念作”にふさわしいシリーズ屈指の傑作に! レギュラー陣もゲスト陣の活躍も楽しい!!【劇場アニメレビュー】

2016.04.15

『名探偵コナン純黒の悪夢』公式サイトより。

 1997年の『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』に始まる劇場版『名探偵コナン』シリーズも、今回の『名探偵コナン純黒の悪夢(ナイトメア)』で堂々20作目となる(2013年の『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』はカウントせず)。

 そもそも青山剛昌による原作漫画の連載が「週刊少年サンデー」誌(小学館)で始まったのが94年、TVアニメーション・シリーズが開始されたのが96年だから、何とも息の長いシリーズというか、一体いつ江戸川コナンは元の姿(=高校生探偵・工藤新一)に戻れるのか? 連載当初に高校生だった読者の多くは既に結婚し親となり、今ではその子どもたちもマンガやアニメを見始めて久しいことだろう。

 そのせいもあってか、劇場版の興行成績も第13作『漆黒の追跡者』(09)以降は興収30億円を下ることがなく、特に第17.5作ともいうべき(?)コラボ編『ルパン三世VS名探偵コナンTHE MOVIE』(13)がルパン・ファンまで取り込むことに成功して42.6億円を計上したのを弾みに、第18作『異次元の狙撃手(スナイパー)』(14/41.1億円)、第19作『業火の向日葵(ひまわり)』(15/44.8億円)と、連続して40億円越えを達成している。

 昨今、映画業界の30代以下の若い映画マスコミ陣と話をして驚かされるのだが、そのほとんどが劇場版『名探偵コナン』は毎年欠かさず見ているという。もちろん幼い頃から親しんできたという習慣もあるのだが、大人になっても面白く見ていられるのだというから、よほどファンの信頼を勝ち得てきているシリーズなのだなと感心する。

 もっともすでに齢50を超えたガキ親父の目線としては、TVシリーズはさておき、劇場版は可もなく不可もなくというのが毎年鑑賞し終えての偽らざる印象で、その点、わりと出来不出来の差がある『映画クレヨンしんちゃん』シリーズに比べると安定している強みもあるのだが、逆にそこが妙に物足りないところでもあり、本音としてはもっと本格ミステリを堪能したいところなのに、劇場用映画ということでスケール感を重視しているのか、毎度『007』ばりの派手なアクションやスペクタクルなどが見せ場となるパターンには、少々飽き飽きしている部分があるのも正直なところなのであった(新一と毛利蘭との恋の行方にもさすがにイライラしてきているというのもある。まあ、それが進展するときは最終回を迎えるときでもあるのだろうけど)。

 とはいえ、今回の『純黒の悪夢』は、その『007』的資質をフルに駆使した、まさに20作記念作品にふさわしい快作に仕上がっていた。そもそも新一を子ども化させた謎の犯罪組織“黒ずくめの組織”の一員と思しき謎の女性(ゲスト出演・天海祐希の声は快活ではないものの、独自の雰囲気を巧まずして醸し出している)が記憶喪失に陥ったことから始まるCIAやFBI、日本の公安警察、そしてわれらの少年探偵団まで巻き込んでの国際的陰謀劇は演出もテンポも快調で、謎の女性が醸し出すミステリアスな情緒も悪くなく、劇中いささかもだれるところがない。

 また今回はコナン同様、黒ずくめの組織によって子ども化を余儀なくされた、灰原哀の登場が比較的多いのも個人的にはうれしいところ。逆にその分、蘭やその父・毛利小五郎の見せ場がほとんどないあたり、がっかりするファンも多いかもしれない(ただし、ここ数作、クライマックスで蘭が唐突に危険な目に遭遇し、コナンの決死の活躍でその危機を救うというパターンが多かっただけに、まあ今回みたいなケースもあっていいのではないか)。

 上手い具合に遊んでいるなとニマニマされられたのは、FBI捜査官・赤井秀一(声:池田秀一)と公安の安室透(声:古谷徹)との確執で、おわかりのようにこれは『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイとシャア・アズナブルの関係性をモチーフにしたもので、途中、事件そっちのけでふたりのバトルが始まったりもして、さすがにそこはストーリーの流れを妨げているようにも思えたが、まあ許容範囲として微笑ましく見守ることができる。

 また彼らはもとより、今回は黒ずくめの組織をはじめとする個性的な大人キャラの面々が多数登場し、一方では少年探偵団の面々も大活躍するので(いつものように足を引っ張り、という言い方のほうがふさわしいかもしれないが!?)、双方のバランスもいい。

 そしてクライマックスは『1941』(79)も『劇場版ガールズ&パンツァー』もかくやの、悪玉らによる実にリアルなミフネ作戦が開始されていくのだから(意味がわからない人は、ガルパンを見てくださいませ)、偶然とはいえうれしくなってしまうのであった。

 監督の静野孔文は第15作『沈黙の15分(クォーター)』(11)からシリーズを支え続けてきた顔でもあるが、櫻井武晴・脚本の冴えも手伝って、今回は最高の出来であるとともにシリーズ屈指の傑作に仕上がっていると思う。

 気が付くと、何やら久しぶりに劇場版『名探偵コナン』に夢中になっている自分がいた。正直なところ、さほどの期待もせずに最初は銀幕と向かい合っていたもので、その分心はがぶり寄りとなって画面にのめり込んでいくのが妙にうれしく、これでまたしばらくの間はコナンを好きでいられるような、そんな気もしてならなかったのである。
(文・増當竜也)

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