『奈落の羊』嫌だけど読んじゃう 生主と、売春で生きる浮浪少女の醜い関係

2016.04.09

奈落の羊/きづきあきら・サトウナンキ

 やっぱり「漫画アクション」(双葉社)は、あなどれないなあと思った。きづきあきら+サトウナンキの描く『奈落の羊』を読んだからである。

 この作品。とことん「嫌だけど、読んでしまう。続きが気になってしまう」類いの作品だ。決して、安易に人に勧めることのできる作品ではないだろう。

 物語は、まったく視聴者の増えない動画サイトの生放送に熱中する大学生・修二と、ネットカフェで売春して命をつないでいる少女・メイが出会ったことで始まる。

 この2人は、クズと悲惨との組み合わせだ。

 修二は大学にもロクに行かず、バイトすらサボって配信に熱中している。企画が当たって視聴者が増えれば、就職もせずにやっていくことができるという、歪んだ夢を見て。かたや、売春で命をつなぐメイは、悲惨を身に纏ったような陰鬱な女。売春しか稼ぐ手段がないのに本番を拒み、客にはフェラ5,000円を2,000円に値切られても文句一ついうことができない。

 生主でうだつをあげる痛い夢を見ている修二は、メイの「ドキュメンタリー」を配信することで、視聴者を増やそうとする。そんな男なので、クズっぷりは神がかっている。メイに対してなんら哀れみを見せることもなく、エサの時間だと弁当を床にぶちまけて、這いつくばって喰わせるのだ。

 描かれているのは、ひたすら醜い光景だけ。そんな配信に視聴者は食いつき、修二の口座には次々と金が振り込まれていくのだ。

「この女はメシにありつけて、俺はアクセスを稼げる。みんなが幸せになれるんだ」

 そんな修二の言葉はまったくの空虚。とことん気持ち悪くて醜い。

 でも修二は、自らの醜さに気づくこともなく、メイの売春シーンを生配信することまで試みる。そんな彼を心配するフリをする友人・嘉門もまたコメントを通じて、修二を思い通りに動かすことができていると思い、興奮しているのだ。

 とにかく、すべての物語が気持ち悪さを押しつけてくれる。とことん闇を抱えた人物ばかりが登場し、誰一人として感情移入することができない。

 でも、ついつい先の展開を期待してしまうのは、この暗黒の世界から登場人物たちが救済される時が来るのではないかという淡い期待を持っているからだ。

 もう一つ、現代にはこんなことも起こりえるのではないかというリアルさが背筋を震わせる。以前、世間を騒がせたドローン少年に限らず、ちっぽけなプライドや満足感を得ようと配信に熱中し、無責任にそれを煽る人々というのは存在している。

 悲惨すぎる闇を描く本作。登場人物がみんな幸せにならないだろうかという、わずかな良心ゆえに、また次巻も読んでしまうだろう。
(文=是枝了以)

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