『買い食いハラペコラ』(藤こよみ) 秋津から戸越銀座まで、ヒロインの行動力が放課後じゃねえ! 

2016.03.28

 食べ物系マンガ界に、新たな期待作が登場だ。藤こよみ『買い食いハラペコラ』(双葉社)は、タイトル通り放課後の女子高生の買い食いを中心に描く物語である。

 私立高校に通うむっちり巨乳のトンちゃんと、公立高校に通う貧乳のあーこは、放課後に落ち合っては買い食いをする仲良しコンビ。むっちり体型とはいえ「トンちゃん」なんてアダ名を受け入れるあたり、2人が超仲良しなのがよくわかります。

 主人公を女子高生に設定していることで、読者はほんわかした可愛さも楽しむことができるわけですが、感じてほしいのはそこではありません。またまだ人生が始まったばかりの2人だから、さまざまな食べ物との出会いが、ほぼ初体験の感動なのです。

 これまでの食べ物系マンガに多かった、人生の甘さや辛さを知っているでもなく、妙に蘊蓄を持っているでもない2人は、あらゆることに素直に驚きます。世の中にはこんな美味しいものがあったんだ! といった風に。これがものすごく新鮮なのです。

 加えて、食べ物や舞台のセレクトが絶妙です。第1話で、2人は夕方のおじさんたちが集っている立ち飲み屋で、初めての焼き鳥買い食いを体験します。2人は「ぼんじり」が何かも知らないまま注文し、その美味しさに感動するわけです。読者のほうも「そうそう、ぼんじりって、いつ知ったんだっけ……」と、過去の体験から感動を共有できることはウケアイです。

 さらに、絶妙なのは、第1話の舞台となっているのが秋津だということ。いやいや、なぜ東京でもローカルっぽさ全開の秋津が舞台なんだ~! と初っぱなから驚きます。ちなみに、きっと作中に登場する焼き鳥屋は実在するに違いないと検索して見たら、地元では名店のようですね。今度行って見ることにしたいと思いました。

 第1話で、いきなり渋い美味しさに目覚めた2人ですが女子高生ですから甘い物も大好きです。キャラメルホイップのクレープにコンビニで買ったプリンを自分でトッピングして楽しむエピソードは、甘い物好きの極地というべきか。カロリーも気にせず食べることができる成長期ならではの行動に、羨ましさすら感じてしまうでしょう。

 で、あくまで物語はフィクションですから、放課後の2人の活動範囲は超広いです。第1話で秋津が登場したので、西武線沿線が舞台かな? と思ったら第5話では、戸越銀座が舞台になります。知らない読者のために説明しますと、東急池上線の戸越銀座商店街から、中延商店街、荏原町商店街は総じて美味いもの天国です。作中で、2人はコロッケを中心に食べておりますが、リアルにこの街を訪れると胃袋がいくつあっても足りません。ちなみに作中で、あーこが「地下鉄のほうが近かったかも」といってますが、東急池上線から歩いたほうがワクワク感が高いと思います。

 また、この作品の評価すべき点として、お色気シーンがないということも挙げるべきでしょう。トンちゃんのむち巨乳や、あーこのひんにゅーはたびたびネタにされますが、下着とかセクシーなカットは一切描かれません。それでいて、2人が魅力的に見える理由。それは、作者が登場する食べ物に素直に感動した心情を投影しているからだと思います。

 いやあ、買い食いって本当にいいものですねえ。
(文=大居候)

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