『S渡さんとM村くん』(英貴) 絶妙な「コレジャナイ」感しか残らない…

 面白い。確かに面白いのだが、なんだこの「コレジャナイ」感は……。

 英貴『S渡さんとM村くん』(KADOKAWA)は、pixivで120万回以上の閲覧を経て商業化された作品だという。

 内容は、出版社側の説明によれば「ラブ(?)コメディ」。衆目の評価では、ドSまたはドMホイホイのお得なマンガだというのだ。

 物語は、サディスト少女・佐渡麗華とマゾヒスト男子・江村昴の2人の特殊な関係を描くというもの。かたや麗華は才色兼備、昴は才気煥発で、2人とも学園では告白されない日がないほどの存在である。

 とりわけ麗華は人を傷つけるのが好き。エッチを迫ってきた教師から電車で痴漢してきたサラリーマンまでを破滅させる日々を送っている。でも彼女がホントに欲しいのは下僕と書いてイヌである。

 ゆえに、満たされない日々を送っていた麗華の誕生日に、彼女は深夜の学校で全裸にリボンをつけた昴と出会う。当然、昴は自分がプレゼントというのだ。

 こうして始まる2人のSMな日常は、結構ハードである。「人間やめられる」という昴は、麗華に命じられるままに校舎の3階から飛び降りる。クワガタムシを採集するために、白ブリーフで体中に蜜を塗られて夜の雑木林に放置される。とにかく、プレイは度を超えてハードである。

 確かにラブコメのノリなのだから、プレイは読者の想像も付かないものになったほうが、面白いのは明らかである。でも、何かが違う。まだ第1巻だから、さほどプレイをしていないにもかかわらず、途中から食傷気味になってしまった。

 何が問題かというと、描かれているのが、SMな関係を通じてビックリドッキリなプレイで読者を笑わせようとしているところだ。

 そのビックリドッキリも、月1回程度読むのであれば驚くだろうが、1巻にまとまると途端に平凡になってしまう程度のものに過ぎないのだ。

 そして、作者はビックリドッキリを描こうとするところばかりに重点を置いて、人間を描き切れていないのである。

 SM作品において重要なのは、お互いに相手が「この人にされたい」という心情。信頼感にせよ、抗しきれない服従感にせよ、そうした境地に達するまでが重要なのである。

 主人公の2人は、とにかく薄っぺらい。ハードなプレイをするにあたっては、お互いの信頼関係がもっとも重要。とりわけSの側は、けっこう気合をいれないといけないわけなのだけれど、そうした描写もまったくない。フィクションの世界でさらにフィクションのプレイが描かれているだけともいうべき空虚さを感じるのである。

 本質的に、作者がSMには興味なんてないままに描いているのが、すべて露呈しているのであろう。

 ネットのPV数ってホントにアテにならないなあと、改めて思った。
(文=ピーラー・ホラ)

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