【劇場アニメレビュー】プリキュア44人よりも目立ってしまう新妻聖子の歌声、ぎこちないダンス動画……『オールスターズ』も曲がり角?

2016.03.18

『映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』公式サイトより。

 2004年の『ふたりはプリキュア』からTV放送が始まり、現在は最新作『魔法つかいプリキュア!』が放送されている『プリキュア』シリーズは、毎年秋と春の劇場版映画の公開が恒例行事となって久しい。

 この劇場版、もともとはその年にオンエアされている『プリキュア』シリーズの劇場用映画を、毎年秋から冬にかけてお届けし続けているのだが(05年の第1作『映画 ふたりはプリキュアMax Heart』のみ4月16日公開)、09年の春、それまでのプリキュアたちを勢揃いさせた『映画プリキュアオールスターズDXみんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』を発表して以降、春はオールスターズ作品、秋はその年のプリキュア映画といった区別がなされるようになっている。

 3月19日から公開の『映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』は、『プリキュア』映画としては20作目、『オールスターズ』作品としては9作目にあたるのだが、このオールスターものは東映の十八番とでもいうべきか、『仮面ライダー』も戦隊ものも最近はミックスしたり、さらには石ノ森アベンジャーズ的な作品までお目見えしたりして、もう作品の区分けが全然できないほどなのだが、こういったにぎやかさこそは『忠臣蔵』以降、映画の祭祀性を重んじる老舗映画会社ならではの持ち味でもある。

 とはいえ、こうも毎年オールスターズ作品が連打されていくと、最初の頃は懐かしのプリキュアたちの勇姿を見られる楽しさがあったものの、次第にそれだけでは飽き足らなくなってしまうのが観客の身勝手なサガでもあり、また年を経るごとに参加するプリキュアの数も増えてくる分(最初は14人で済んでいたが、9作目たる今回は44人。来年は赤穂浪士47人の数に達する?)、全員を描くことは不可能となり、内部事情的には声優をどれだけ集められるかといった問題まで発生しているそうで、ここ数作はかなり内容的に苦しい展開となっている感が否めない。

 特に昨年の『映画 プリキュアオールスターズ 春のカーニバル』(15)は、昨今流行りのアイドル・アニメの流れに乗せて、いわば歌番組のような形でプリキュアたちに歌わせるという趣向までは良かったのだが、そう仕向けたのは悪漢たちであり、いわばワルにだまされながらプリキュアたちが歌い踊るさまなどを見せられても、こちらは全然楽しくなく、個人的にはシリーズ・ワースト1ともいえる不愉快な作品に仕上がっていた。

 今回の『映画 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』は昨年度の歌と踊りの要素をさらに高めたミュージカル形式ということで、今度こそはと期待したのだが、結論から先に申すと、昨年度よりはまだマシといった程度の仕上がり。五つ星でいうと星二つといったところか。

 まず、冒頭でプリキュアたちが披露するミュージカル・シーンでの、キャラクターの動きのぎこちなさにがっかりしてしまった。TVシリーズでは毎回エンドクレジットでモーションキャプチャーによる可愛いダンスを見せてくれているプリキュアたちだが、ここでは人としてのリアルな動きが全然作画として描出されていないので、どうにももどかしい想いばかりが募ってしまう(この点、前回の『春のカーニバル』のほうがモーションキャプチャーとかつての名場面を組み合わせながら、違和感のない演出がなされていた)。

 かつては、ちびキャラであろうとリアルで自然な動きを体現させてくれていた東映動画だが、東映アニメーションとなって久しい今、アニメーターたちへの技術指導などはどうなっているのだろうか?

 ミュージカルという謳い文句の割には、それらしきシーンは意外と少なく、もっともっとみんなに歌い踊ってほしいという欲も沸くのだが、それ以上に今回は『魔法つかいプリキュア!』のふたりの成長物語になっていることもあって、せいぜい前作の『Go!プリンセス・プリキュア』のキャラ+αが目立つ程度。大半のプリキュアは完全にゲスト扱いで、これなら前作『春のカーニバル』のほうが、プリキュア全員がそれぞれ歌い踊るシークエンスが用意されているだけマシではあった。

 また今回、プリキュアたちを危機に陥れるオリジナル・キャラクター、魔女ソルシエールの存在感が圧倒的で、特にその声を担ったミュージカル女優・新妻聖子が何か一声発するたびに場内の空気が変わるほどの説得力は並々ならぬものがあり、おかげでプリキュア総勢44人が束になってかかっても彼女ひとりにかなわないほどのオーラを放ち続け、ましてや彼女が歌いだしたらもう、すべては彼女のワンマンショーのようになってしまっていた。しかし、それゆえにクライマックスは圧巻のものとなり、映画の出来不出来などを超えて「このシーンは必見!」ともいえる白眉たるものになっている。

 プリキュア44人VS新妻聖子の陰で、ソルシエールをサポートするトラウーマにも疑問が残るというか、ただただ単純に「馬かよ!」といったキャラ造型は一体何なのか? 声を山本耕史が担当しているのだから、普通にイケメン・キャラでよかったのではないか?

 だんだん書いているうちにイライラしてきたので、久々に『春のカーニバル』をTVで見直してみたら、やはりあちらのほうが音楽映画としての体をなしてはいるものの(何よりも劇中プリキュアたちが披露する曲数そのものが多い)、やはり悪役の支配下に置かれたプリキュア歌謡ショーなど全然楽しくはなく、それよりは見終えてしばらくの間、新妻聖子の壮大なるスペクタル感覚みなぎる美声が脳裏から離れないほどのインパクトをもたらす今回のほうが、断然気持ちよく見終えることを再確認できたのだが、しかし「それでいいのかプリキュアオールスターズ?」といった疑念は晴らせないままである。

 ほんと、マジに来年のオールスターズ10作記念作品は、プリキュア忠臣蔵みたいな時代劇ノリにするくらいのテコ入れがあってもいいかもしれない。またパラレルワールドとしてのオールスターズならば、時代劇、SF、ミステリなどなど、しばらくの間は数をこなせると思うのだが、東映アニメ-ションさん、いかがなものでしょう?
文/増當竜也

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