コミケに勝てないデモに価値はあるのか?浅羽通明『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』

 今回取り上げるのは、浅羽通明『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』(ちくま新書)。

 この本を読んで、もっとも「へえ~」と思ったのは、数々のアニメ脚本で知られる花田十輝の祖父は、左派系言論人として知られた花田清輝であると記しているところ。なんだか勉強になったなあと感じた次第である。

 聞き書きスタイルで綴られる本書は、表題の通り昨年ブームとなり、夏の参院選に向けて盛り上がっている「反戦・脱原発リベラル」クラスタを批判しているのだと思った。ところが、浅羽は突然『中二病でも恋がしたい』を解説しはじめるなどの暴走を繰り返し、聞き手に止められるのである。

 一時は著述業をセーブしていた浅羽だが、この本の刊行を機にTwitterやブログを開始し、再び活動的になっている。これまでも数々の著書がある浅羽だが、筆者が思う浅羽最大の著書は1988年から3冊刊行された『ニセ学生マニュアル』シリーズではないかと思う。これは、モグリで聴講すべき大学の授業を教えてくれるという画期的な本であった。

 今はインターネットで、誰もが情報発信できる時代。むしろそうした情報が数多く発信できるはずなのに、そんなサイトはいっこうに見当たらない。そもそも、昨今の大学では教室に学生以外の立ち入りを禁ずる旨が掲げられているやら、キャンパスそのものが学外者を排除する姿勢を示していたり……うん、改めて息苦しい時代になったのだと評価せざるを得ない。

 そんな時代に一大ムーブメントとなった「反戦・脱原発リベラル」を、浅羽は批判する。でも、単に批判するのではない。昨年の安保法制で存在感を示したSEALDsに対しても、小熊英二のような学者に対しても、ある事象では批判するかと思いきや、別の部分では価値を見いだしていたりする。

 でも、この本で評価すべきは、そうした是々非々で公正に見ようという姿勢ではない。ダイナミックというよりも床屋談義ともいうべきスタンスで、近年の社会運動の問題点をバッサバッサと切りまくる。その挙げ句に、思いつきとしか思えないような論法で勝利への道程を叫ぶのだ。

 例えば自衛隊の海外派兵を止める手段として、浅羽は海外派兵された自衛隊員が一人死ぬたびに、あらかじめ決めておいた志願者が自殺すればよいという。それも、事前に予告しておいて、いざ決行する時はネットで生中継をしろというのである。

 ぶっとんだ方法論を語るかと思いきや、別のページになれば、妙にわかりやすい論法で「リベラル」の問題点を語り出す。リベラル知識人はセカイ系で中二病なのだと……。

 だからエヴァの使徒みたいな敵、たとえば集団的自衛権を容認する政府が繰り出した安保関連法案などが来襲したら、エヴァに乗り込んで、もとい官邸前とか国会のデモへ参加して闘います。

 とにかく鋭く充実感や楽しさばかりが押し出される昨今のデモに疑念を示しつつ、浅羽は、一つの問題提起をする。「デモはコミケに勝てるのか」というものだ。

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