アニメ『ももくり』はなぜスマホで全26話一挙公開なのか? 挑戦的で斬新なその手法をとった理由とアニメの見どころを聞いてみた(2)

 人気コミック『ももくり』は、アニメ化に際して、なぜスマートフォンで全26話一挙公開という珍しい手法をとったのか? そして従来のアニメファンともまた違う、comicoのファンたちは実際公開されたアニメに触れて、どんな反応が示したのか。

 もしかしたら、新しいアニメの発表形態が、ここから生まれていくのかもしれないアニメ『ももくり』インタビュー(座談会に近い気もするが)。前回に続いて平池芳正監督、サテライト・金子文雄プロデューサー、comico事業本部・岩本昌子プロデューサーにお話を聞いた。

1603_momokuri.jpg(C)くろせ/comico/ももくり製作委員会

―― 今作はスマートフォンのみの視聴を前提にしています。レイアウトで画面の情報量など、かなり調整されたのではないかなと思ったのですが。

平池芳正(以下「平池」) 最近は40インチ前後のTVで見てもらうことを意識して作りますが、『ももくり』に関しては、気になったところは携帯の画面サイズを意識しながら進めていました。アップの寄せ具合とか、引くにしてもどこまで引くのか。いつものレイアウトより調整している部分はあります。

―― 自分も「これはやっぱりスマホの小さい画面を想定しているんだな」と感じました。

平池 映像としては40インチくらいのモニターでチェックをしていて、手を抜いているわけではないんですけど、そもそも原作が不必要な情報を、スマートにカットしているんですよ。カメラが向けられているキャラクター以外の情報を、上手にオミットしていて、アニメもそれを取り入れる画面構成をしているのでそう感じられるのかもしれません。

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金子文雄プロデューサー(以下「金子」) 加えて、原作の背景がイメージで描かれているシーンを、アニメでも再現しようと考えていました。我々としては、背景をキッチリと描きたくなってしまうんですけど。

平池 それも、スマホで見るときの見やすさにつながる部分です。そこで背景を描き加えてしまうと、特にデザイン的な背景の良さは損なわれるので、原作の、“キャラにスポットを当てる”手法を尊重した結果です。もちろん、大画面で見たとしても、「手抜き」と思われてしまうような画面作りはしなかったつもりですけど。

―― お話を聞いていて、映像化に相性がいい原作コミックだったのかなぁ、という気がしてきました。

平池 相性はいいと思いますけど、難しいのが、「本作の何が面白いのか」を、簡潔に定義しにくいところ。単純に一つは、ももくんと栗原さんのやり取り、表情感だと思うのですが、そういった魅力は、雰囲気が原作とずれると面白さがスポイルされてしまう。だから今回はつき合いのある大島(美和)さんにキャラクターデザインをお願いしたんです。例えば栗原(雪)さんでいうと、おっとりとした可愛い子で、たれ目でホワッとした感じに描きたくなるタイプのキャラクターなんですが、よくよく見るとじつはキリッとしていたり、目がたれるということはほとんどない子なんです。ももくん(桃月心也)も可愛い子なんですけど、眉はキリッとしているし、目も吊りあがっている。アニメーターが「この雰囲気だとこう描く」みたいなところからはズレているんですよ。

―― 記号で捉えてしまうと、『ももくり』的には不正解なわけですね。

平池 当初はそこを修正するのに手間どりました。あと演出方面でいうと、「アニメでこういうシーンなら、こういう段取りや効果が必要だよな」という演出を盛る、加筆する作業がよくあるんですが、『ももくり』でそれをやると、2人の間にあるささやかな雰囲気が飛んでしまうんです。

―― 原作コミックは黒100%という色を一切使わず、中間色も多いとか、シンプルでイメージ的なBGが多いとか、そういったことに通じる『ももくり』の魅力だと思いますが、それは他メディアに移植しようするのは、難しそうですね……。

平池 そうですね。原作を読んでいて、背景などはシンプルですが、決して物足りないわけではなく、絵としてちゃんと成立しています。それを違うメディアへ、アニメに持ってきたとき、いつものアニメの文法でやってしまうと、大事なものがスポイルされて、違うものになってしまう。背景や色の調整にも原作の良さを生かしながら、アニメとして良い形になるよう注意を払いました。

1603_momokuriato01.jpg表情設定画より。

■キャラクターたちの可愛らしさに、惑わされている部分がある
―― キャストの演技を初めて聞いたとき、「あれ、ももくんの声が予想より低いな」と感じたりしたのですが、ももくんは意外と釣り目であるし、キッパリもしている。今の話を聞いていて、岡本(信彦)さんの起用や演技の方向は、合っていたんだなあと、勉強不足だったなと、思い知りました。

平池 ああ、キャラクターたちのパッと見の可愛らしさに、惑わされている(?)部分があるのかも、と思います。キャスティングや演技プランを考えるにあたり、見た目だけでなく内面や全編の芝居を考慮しなくてはいけません。くろせさんとcomicoの担当編集である北室(美由紀)さんとお話しして、裏レシピ的なところを聞いた上で、今回のアニメの形にしました。あと、“ももくん、意外と声が低い問題”ですけど……最初のPVが彼のモノローグだったから、余計に低く聞こえたのかもしれません。今回、ももくんは多様な芝居の幅が必要だと判断し、そこで岡本君にはあまり作ったような声での基本芝居はしないでもらいました。栗原さんとのやさしそうな男の子の芝居から、友人たちとの気さくな芝居、そしてごくたまに見せる、“男らしい”芝居をきっちり演じてもらいたいなと。

金子 そういう意味でいうと、キャラクターの見た目だけでキャストを決めると、小学生高学年か中学生ぐらいの声変わり前な声質を、知らずに求めてしまうのかもしれませんね。

平池 “絵の可愛さ”合わせだけなら、もっと可愛い声かも。

金子 そうそう。でも『ももくり』の少年たちは、女性声優さんが演じる少年声とは違うなとも思うんですよ。

―― 高校生で、男女がおつき合いを始める物語ですものね。

平池 ですから、ももくんに違和感を覚えた方がいたら、いい芝居を引き出しているつもりなので、早く続きを見てくれ! と思います(笑)。「うわっ!」と思うようなお芝居もしてくれているし、岡本君が彼ならではの、いじられキャラ、愛されキャラみたいなところも含めて良い芝居をやってくれましたから。

金子 やっぱり、ブランコの回とか、男の子っぽい決めセリフを決めるじゃないですか。その時に格好良く言えないとダメなんですよ。

平池 レアなシーンですけど、そこを見越して調整しています。あと、ももくんは男性からも女性からも人気があるんですが、それだけ作り上げるのが難しいキャラなんです。というのも、人気があるということは、皆さんの中のももくん像もそれだけ多くて、根強いということでもありますから。だからこそPVの段階で、声に対する多様な意見が出たのかもしれません。栗原さん以外にも、大勢の方に“ももくん”は愛されています。だからこそ、アニメのももくんも、みんなに好かれてほしいなと期待しています。

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■新鮮で懐かしいcomico読者たちの反応とは?
―― ファンの反応も含めて、現段階での手応えはいかがですか?

平池 手応えは……まだ難しいです(笑)。TVのほうがわかりやすいですかね。逆にすぐ出るものじゃないかなと思っています。今回、アニメとしての出来についても信頼できるスタッフとしっかりした仕事ができたし、原作サイドともいい関係を築けたという自負もあります。

岩本昌子プロデューサー(以下「岩本」) まだ公開してから数週間ですし、これからでしょうね。それに我々のほうでも見せ方を工夫していきたいなと思っているんですよ。原作ファンが同じ場所でワイワイ見れるような場所を作ったらどうかとか、いろいろ考えているところです。ただ、やっぱり全体的にアニメをあまり見たことがない読者が多いので、反応が新鮮で面白いですね。アニメの見方すら違うんですよ。原作とアニメがどう違うか、というような議論にはあまりなりませんでした。

―― 客層で大きく変わるんですね。

岩本 『ももくり』ファンのみなさんは、批判の前に「感謝!」といってくれるんですよね。自分が応援している作品をアニメ化してくれてありがとうと。あとはやっぱり声が入ったことがうれしいみたいですね。

平池 今のアニメファンは色々ともう慣れちゃっているから。

岩本 もちろん中には、アニメに詳しい人もいるんですよ。だからすごくアニメにウブな人もいれば、マニアックな人もいて、入り乱れてコメントして会話している。それがまた面白いんです。

平池 このアニメで恐ろしいところは、アニメの公式チャンネルに、コメントが寄せられるところですよね、怖いのでチラチラとしか見れていないんですけど(笑)。キャストたちの声に対しての意見も多いですが、これがものすごく分かれている。受け取り方が人それぞれで違うんだなぁと感じました。

金子 何か反応が新鮮だけど、懐かしいですよね。昔はみなそうでしたから。今のアニメガンはもう、声優さんの声が想像できちゃいますから。生活習慣的にアニメを見ることがなくて、でもマンガは見てるという人が、コメントまで寄せてくれるのはうれしいですよね。

平池 アニメは見てるけど、ブログであったり匿名掲示板であったりという発言の場までは行かない、という人もいるかもしれませんね、10代の子とかで。そういう子たちもcomicoが場を用意してくれるから、コメントすることができるのはいいですよね。……まぁそれゆえ、若いストレートなコメントが怖いのですが。

―― 本作は、アニメにこれまであまり接点がなかった原作ファンにも親しみやすくて、今後アニメファンとして成長してくれるような作品になっていると思います。

平池 そうですね。comico読者の10代、20代の方々にもっとアニメに興味を持ってほしいし、アニメ好きなおじさんたちにも、comicoや『ももくり』に、興味を持ってもらえるようになるとうれしいです。

■comico
http://www.comico.jp/official/

■「ももくりチャンネル」
http://www.comico.jp/special/index.nhn?docno=5

■アニメ『ももくり』公式サイト
http://momokuri-anime.jp/

(C)くろせ/comico/ももくり製作委員会

ReLIFE5 (アース・スターコミック)

ReLIFE5 (アース・スターコミック)

同じくcomico連載作。こちらは4月よりTVアニメに

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