アニメ『ももくり』はなぜスマホで全26話一挙公開なのか? 挑戦的で斬新なその手法をとった理由とアニメの見どころを聞いてみた(1)

 昨年12月に、マンガ・ライトノベルのエンターテイメントプラットフォーム「comico」にてアニメが公開された、Web発の人気コミック『ももくり』(作:くろせ/comico)。

『ももくり』は、ピュアな恋愛模様が描かれた青春ラブコメディ。2014年1月から、comicoにて連載開始後、1200万ダウンロードを突破した人気作アニメ化を担当するのは、監督・シリーズ構成:平池芳正、キャラクターデザイン・総作画監督:大島美和、アニメーション制作:サテライト。また、キャスト陣も栗原雪に加隈亜衣、桃月心也を岡本信彦など、実力派たちが集結した。

 普通にTVアニメとしても、注目の一本となりそうなスタッフ・キャスト陣が揃っているが、アニメ『ももくり』は通常のTV放送ではなく、スマートフォンのみで公開。しかも週や月間隔といった、ある程度の期間ごとにエピソードが順次公開されていく従来の手法とは異なり、全26話を一挙に公開するという、珍しくも、意欲的な公開手法をとっている。

 どんな目的や理由があってこの公開方法となったのか? アニメ『ももくり』の見どころとあわせて、平池芳正監督、サテライト・金子文雄プロデューサー、comico事業本部・岩本昌子プロデューサーに話を聞いてみた。

1603_momokuri.jpg(C)くろせ/comico/ももくり製作委員会

―― まず原作コミックの感想や、またアニメ化するときに、「ここは注意しよう」と思われたポイントなどを教えてください。

平池芳正(以下「平池」) 最初にお話をいただいたときは、まだコミック化されていなかったので、「comico」を調べるところから始めました。comicoさんに連載されているほかのマンガも読んで、上から下へ、マンガを縦に読んでいくスタイルにも、その時に慣れましたかね。全部無料で読めるんだ! とも思いました(笑)。その中で『ももくり』の第一印象は、月並みですけど、“可愛いな”。あと、後に聞いたお話でもあるんですけど、くろせさんが初めて描いたマンガということで、やっぱりだんだんと絵柄も変わってくるし、お話も洗練されていったり、成長が感じられる面もありますが、一方でブレていない部分もあるんですよ。作家性というか、一本通っている芯があるので、そこは崩さず、大事にしようと留意しました。

―― 初連載であれば、成長・変化はかなりあったでしょうね。

平池 加えて、comico連載時から単行本になるときに、かなり修正されているんです。comico版を見ながら作業していたのですが、くろせさんから「絵コンテのココがちょっと違和感があるんですけど」と、相談いただいて。「おかしいな、ちゃんとcomicoを見て再現していたはずなのに」と思いコミックを見たら、修正されていたりとか。あ、「表情変わったんだ、でもこの表情は自分も気になっていたんだよな」というところが修正されていて。

1603_momokurimae02.jpg原作者もアニメスタッフも注意を払った、ももくんの表情。

金子文雄プロデューサー(以下「金子」) 特にももくん(桃月心也)の表情ですよね。栗原さんのセリフに対するももくんの表情を、修正されていて。「このセリフに対して、この表情でいいのかな」という、我々が“この方向もありだけど”と感じていた部分を修正されていた、といったことがいくつかありました。

―― 感情の流れが不自然だったところが、しっかり直されていたと。

平池 くろせさんも描きながら、ももくんというキャラがどんどんできあがっていったんでしょうね。で、2巻では表情とコマ割りが直っているところがあって。2コマ使って、1カットのアップに切り替わっていたりとか。

金子 そのへんも含めてシナリオ上では、まずは恋愛軸、感情線に気をつけました。『ももくり』という作品はももくんと栗原さんはある意味完結しているというか、どういう風に彼氏彼女となっていくかという過程の物語ですよね。2人の周囲にも魅力的なキャラクターが配置されていて、彼ら彼女らにも色々な感情線が見えつつあるんですが、これが意外と(線が)増えそうで増えないので、なかなか難しい(笑)。

平池 原作を読んだ人は誰でも「おっ!」と感じたのではないかと思いますが、やはり「あ、最初につき合っちゃうんだ!」というところでしょうか。つき合うのかつき合わないのか? という作品が多い中で新鮮ですし、そこからちゃんとしたカップル(?)になっていく過程を描くというのが、面白いところですよね。

1603_momokurmae01.jpg「ももくりチャンネル」トップ画像より。

■アニメ好きではないcomico読者へアニメを送りたい!
―― スマートフォンのみ、自社アプリ内で26話を一挙公開、という形態になった過程や経緯についてお聞きしたいんですが、そもそもアニメ化はどなたが発案されたんですか?

金子 comicoさんからです。ざっくり言うと、comicoという媒体があって、面白い作品がたくさんあるから読んでみてくれないか、と相談されたのがキッカケだったと思います。

――『ももくり』はなぜこんな尖がった形で発表されることになったんでしょうか?

岩本昌子プロデューサー(以下「岩本」) 一番は、ファンであるcomicoの読者に、アニメをいち早く届けたかったからです。comicoの読者はいわゆるオタク、熱心なアニメファンではない層も多いんです。深夜アニメの放送や動画配信サイトをチェックしたりはせず、ドラマや音楽、ファッション好きの中高生の女子も多いので、そういったライトな読者たちにアニメを見てもらいたい、アニメを身近に感じてもらいたいなと。

平池 comicoというサービス自体が10代、20代の読者が多いサイトなので、例えば30代の男性で、comicoを日常的に読んでいるような人がなかなかいないんです。『ももくり』も、こんなに面白くて、魅力的なキャラクターもいるんですが、あまり気づかれてないんですよ。

金子 我々も含めた、いわゆるマンガ・アニメオタクにそっぽを向かれているというか(笑)。ちょっとオシャレさを感じて、敬遠されているのかもしれませんね。

平池 あと、周囲に「なんでcomicoをチェックしていないの?」と聞くと「やっぱり紙で読みたいんだよね」という人が結構いましたね(笑)。

―― ああ、個人的にはすごくわかります。

金子 弊社の30前後ぐらいのスタッフに、携帯でマンガを読むの? と聞くと、皆かなり読んでいるんです。でもそれは、紙媒体で掲載・発行されたマンガがデータ化されたものとか、その派生が多いんですよね。やはりそのあたりの層にとっては、マンガはまだ紙媒体の体裁がいいのかなと思いましたね。

平池 ただ、私の場合『ももくり』は当初の段階から、comicoでの公開メインでやりたいというお話で聞いていたので、それは面白いと思いましたね、今はTVアニメ自体がメディアとして難しい時期に入っていますから。新しい可能性、新しいユーザーが見つかるのではないかと。あとcomicoさんの活動で面白かったのが、“ファンミーティング”という形で、アニメ化する前から作品のファンの声を直で聞く機会をいただけたのがすごく大きかったですね。

―― 原作があるものをアニメ化する際に、ファンの声や願望をどこまですくい取れるのか、というのは大事なポイントですよね。

平池 そうですね。ただ、どこから出てきた声なのか、それは本当に拾うべき声なのかどうか、考えなくてはいけません。ファンミーティングの場合だと、ディープなアニメ・マンガを知っている人と、そういった知識はないけど、『ももくり』は大好きなんです、というような幅広い層の人から声を聞けました。面白く、とても貴重な機会でした。

■監督とサテライトさんに一緒にチャレンジしていただきました!
―― スマートフォンでの公開にしても、一週間に1話ずつ、TV放送ぐらいのペースで配信していくという手法もあったのではと思いますが、一挙全話公開にはどんな狙いがあったのでしょうか?

岩本 まず斬新なやり方、今までのアニメであまりなかったことをやってみたかったというのと、あと、ネット配信されている海外ドラマ等では、全話公開というのは結構とられている手法です。「続きが見たい!」というアニメ視聴の経験があまりないcomico読者には向いているのではないかと思い、制作途中で「全話公開でいきましょう、全話を作りきってください」とお願いしまして(笑)。

一同笑

岩本 「続きが見たい!」となる海外ドラマのような引きを、エピソードごとに意識しました。「次はどうなるんだろう、次は次は」というのを、日本のアニメでやってみたかったんです。あとは原作ファンだらけの場所で公開しているわけです。皆ストーリーを知っていますから、「お気に入りのあのシーンをアニメで見たい」となれば、お気に入りの話数から見ていただくのも有りかなと。もちろん監督やスタッフの皆さんは1話から見てもらいたいと思っていると思いますけど、一挙に全話公開という形だからこそ、そういう見方をすることもできる。視聴方法から何から、全てを読者に決めてもらおう、ということもコンセプトとしてありました。従来のアニメファンではなく、アニメを見慣れていないcomicoの読者がどう動くか。そこを見てみたかったんです。

1603_momokurimae03.jpg

―― 新しいやり方を新しいアニメ視聴者に提供することで、どんな反応が見られるか。そこに挑戦してみたということですね。

平池 チャレンジですよね(笑)。

岩本 そう、監督とサテライトさんには一緒にチャレンジしていただきました。

―― ちなみに制作スケジュールは、普通の26話分ぐらいのスピード感だったんですか?

金子 それはちょっと……短めだったかな(笑)。

平池 ただ、昨今のTVアニメって、スタンバイ期間が長いんですよ。そこをうまく短くできたかなと思います。

金子 アニメ化への準備期間部分で、コアメンバーを少なくして進めました。プリプロ段階での時間をあまりかからないようにして、なるべく本編制作期間を長くとれるように、できる限り調整しました。大体今のアニメの感覚で言うと、放送開始にどうしてもスケジュールを合わせてしまいがちなので苦労しました。

―― ただ、毎週の締め切りがあるからこそ、最後の一頑張りができる、という面もあると思います。そこがかなりフラットだったわけですよね?

平池 そうですね。ただ、全話納品という大きなゴールがありましたから(笑)。やっぱりバタバタはしましたけど、変なところで時間をかけることもなく、まとめられたかなと思います。今のTVアニメ業界にたまにあるような、放送前日、当日まで粘るなんてことは少なくともなかったですね(以降、明日、2月13日配信予定の(2)へ続く!)。

■comico
http://www.comico.jp/official/

■「ももくりチャンネル」
http://www.comico.jp/special/index.nhn?docno=5

■アニメ『ももくり』公式サイト
http://momokuri-anime.jp/

(C)くろせ/comico/ももくり製作委員会

ももくり2 (アーススターコミックス)

ももくり2 (アーススターコミックス)

紙で読み返すのも、発見があって楽しい

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