洗脳と恋愛はとてもよく似ている? CIAによる人体実験を題材にしたラブコメ『エージェント・ウルトラ』

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“MKウルトラ計画”という言葉をご存知だろうか。「円谷プロのお蔵入りした企画タイトルかな」とうっかり勘違いしてしまいそうだが、米国の諜報機関CIAがソ連と冷戦状態にあった1950年代~60年代に極秘裏に進めていた人体実験のコードネームなのだ。ホームレス、軽犯罪者、精神病患者といった一般市民を実験材料にして、LSDなどの薬物を投与することで洗脳した挙げ句に、組織の命令に忠実な殺人マシンにしてしまおうというもの。人権を完全無視したあまりにヤバい実験内容だったために70年代に打ち切られているが、その後も実験は続けられていたのではと米国では噂されている。ケネディ大統領やジョン・レノン暗殺事件は、実はCIA関係者によってマインドコントロール化されたヒットマンが使われたのではないかと囁かれている。何とも恐ろしい都市伝説だが、これをモチーフにしたのがジェシー・アイゼンバーグ&クリステン・スチュワート主演作『エージェント・ウルトラ』。ドシリアスな題材をネタに、超ロマンチックなアクションコメディにしちゃっている。

 田舎町で暮らすマイク(ジェシー・アイゼンバーグ)は、何をやっても丸出ダメ夫くん。自宅でマリファナをすぱっ~と吸っていればご機嫌で、生活力はまったくない。そんなマイクにはなぜか美人の恋人フィービー(クリステン・スチュワート)がいて、甲斐甲斐しく世話を焼いている。自分には過ぎた恋人だと痛感しているマイクは一念発起して、フィービーをハワイ旅行へと誘う。旅行中にフィービーに婚約指輪を渡し、プロポーズするつもりだった。でも、ハワイ行きの旅客機の出発時間になっても、マイクは搭乗することができない。パニック状態に陥って、空港のトイレから出られなくなってしまったのだ。ハワイ行きの便は飛び去ってしまった。結局、マイクは指輪を渡すこともプロポーズすることもできず、フィービーに慰められながら自宅へと引き返す。『ゾンビランド』(09)や『ソーシャル・ネットワーク』(10)に主演したジェシー・アイゼンバーグが十八番としているオタク青年を演じ、『トワイライト』シリーズの気丈なヒロイン役で知られるクリステン・スチュワートとの不釣り合いなラブストーリーが奏でられる。

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 オフビートな序盤から一転、物語が地殻大変動を起こすのは、マイクのバイト先のコンビニにひとりの女性客が現われてからだ。この女性客・ラセター(コニー・ブリットン)はマイクに向かって意味不明の言葉を囁く。訳が分からずきょとんとしているマイクだが、この言葉はマイクをスリープ状態から解く暗号で、マイクの体の中のスイッチが入ってしまう。このすぐ後にマイクに向かって屈強な2人の男たちが襲い掛かり、マイクに隠されていた驚くべき身体能力が明かされる。マイクは手に持っていた一本のスプーンで武装していた男たちと戦い、瞬く間に撃退してしまう。気が付くとマイクの前に男たちの死体が積み重なっていた。ヘタレ人間のマイクの正体は、何とCIAの苛酷な人体実験に耐え切った究極の人間兵器だったのだ。ところがCIA内部の権力争いから人体実験の事実はなかったことになり、マイクは消去されようとしていた。

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 ボンクラな男が本当は凄腕のエージェントでしたという設定は、岡本喜八監督のカルトな名作『殺人狂時代』(67)でも使われていた。『殺人狂時代』は日本に潜んでいたナチスの残党が精神病患者を洗脳して殺人マシンにしていたが、CIAのMKウルトラ計画も元を辿ればナチスが第二次世界大戦中に行なっていた人体実験がルーツであり、根は同じなのだ。『エージェント・ウルトラ』のジェシー・アイゼンバーグの変身ぶりと、『殺人狂時代』に主演した若き日の仲代達矢の活躍は、ぜひ見比べてみてほしい。ちなみに『殺人狂時代』は、1971年から始まった人気アニメ『ルパン三世』の元ネタとなったコメディ快作でもある。

 コンビニが戦場と化す『エージェント・ウルトラ』の面白さは、見るからにオタクっぽいジェシー・アイゼンバーグが抜群の格闘技術を披露するという意外性に加え、MKウルトラ計画を単なる笑いのネタで済ませていない点にある。マイクとフィービーという不釣り合いなカップルの行く末を見守っている我々は、恋愛と洗脳はとてもよく似ているという事実を突き付けられる。恋をしてしまったら、もう相手のことしか考えられなくなる。仕事とか家族のことはどうでもよく、すべてを捧げなくては気が済まなくなってしまう。だが、自分がCIAの洗脳実験を受けていたという過去を知ってしまったマイクは悩む。どこまでが本当の自分なのか分からないからだ。フィービーのことを愛していると思っていたけど、もしかしたら彼女への恋愛感情も操作されたものなのか。襲い掛かる敵を超絶スキルで次々と倒しながら、マイクは恋人への想いが本物かどうか分からずに途方に暮れる。

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 恋愛という感情を科学的に見れば、異性との接触によって刺激を受けた脳内がドーパミンによって支配されている状態であり、ドラッグによって意図的に興奮させている状態とさほど変わらない。天然由来の感情か人為的に生み出された感情かの違いなだけだ。いわば、『エージェント・ウルトラ』は恋愛感情と洗脳支配とのタイマン対決の物語でもある。果たして勝つのは、恋愛か洗脳か? CIA側に捕らえられた恋人フィービーを救い出すため、マイクはCIAを敵に回した全面戦争を挑む。マイクはまさに史上最強の恋愛エージェントとして覚醒していく。
(文=長野辰次)

『エージェント・ウルトラ』
監督/ニマ・ウリザテ 脚本/マックス・ランディス 出演/ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ビル・プルマン、トファー・グレイス、ウォルトン・ゴギンズ、コニー・ブリットン 
配給/KADOKAWA R15+ 1月23日(土)より全国ロードショー
Alan Markfieid/(c)2015 American Ultra,LLC.All Rights Reserved.
http://agent-ultra.jp

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