“エロ本除外論”におもねる人々ばかりではない──軽減税率をめぐり、出版業界内でも「軽減税率いらない」論は健在

1601_zeiritsu.jpg「日本雑誌協会」公式サイトより。

 出版業界が「有害図書」を排除する仕組みを創設する運命からは逃れられないのか。出版物への軽減税率の適用をめぐって、政府関係者が要求する「有害図書」の排除。昨年12月25日には、菅義偉官房長官が「出版界が自主規制を行い、議員立法という形で国民から見て『なるほど』という線引きが必要だ」と発言。事実上、出版業界に線引きを丸投げした形になっている。

 軽減税率の問題に携わる日本雑誌協会など出版4団体の関係者は「なんらかの仕組みを作ることはやむを得ない」として次のように語る。

「東京都の不健全図書指定制度以上のレベルの仕組みをつくることはできないと思っています。例えばの話ですが、東京都や各自治体が不健全・有害図書指定した出版物を軽減税率の対象外とする方式も考えられます」(同関係者)

 さらに具体的には、軽減税率の対象外になる「有害図書」を判断するために出版ゾーニング委員会を拡大改組することも考えられているという。出版ゾーニング委員会は、2001年に設立された第三者機関で、その目的は出版物の区分陳列。青少年に不適当とされる内容が続くと判断される雑誌類に対して、ゾーニングマークを表示するように要請する組織である。

 委員会は、出版倫理協議会議長と学識経験者3名。さらに、出版倫理協議会から1名とアダルト系出版社で構成される出版倫理懇話会から1名で構成されている。いわば全出版業界による自主規制のための機関である。

 ここに新たに軽減税率の対象になるか否かを判断する権限を付与しようというわけだ。とはいえ、現状の委員会は隔月1回の開催。もしも、実際に運用しようとすれば、相当の組織改編が必要となるだろう。また、運用次第では自主規制ではなく「自主検閲」の機関になりかねない。前述の関係者は語る。

「検閲を行うつもりはありません。もし、そのような組織をつくるとしても、国会議員を委員に加えたりするつもりはありません」

 一方で、この関係者は「果たして成人マーク付きの出版物が軽減税率の対象になり得るのでしょうか」とも話す。ここから見えてくるのは、出版業界内部にアダルトを除外して2%の軽減税率を認めてもらおうという意志が存在しているということだ。そこで、もし前述のような新たな仕組みをつくったとしても、出版倫理懇話会側とは揉めるのではないかと尋ねてみると……。

「それは、自分たちで議員へのロビー活動をすればいいんじゃないでしょうか」

 現在、軽減税率の適用をめぐってロビー活動を行っているのは、日本書籍出版協会・日本雑誌協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合連合会の出版4団体。アダルト系出版社で構成されている出版倫理懇話会は参加していない。その出版倫理懇話会側からは「大手が自分たちを切り捨てて生き残ろうとしている」という怨嗟の声も聞こえている。

 もうひとつ、出版物の内容によって8%と10%が混在することになった時に書店や取次が処理することができるのかという問題もある。

 これも、前述の出版4団体の関係者に尋ねてみたところ「バーコードで処理するので問題はない」という。さらに「すでに軽減税率の論議の中で研究チームをつくって議論した結果、可能ということになっています」とまでいうのである。

 こうした発言から見えてくるのは、出版業界全体の趨勢として、軽減税率に含めてもらうにはエロ本の切り捨てやむなしという方針が多数を占めているようだ。

 けれども、出版4団体がエロ本切り捨てで一致しているわけではない。4団体のひとつである日本雑誌協会の関係者は語る。

「新聞はわずか2%のために魂を捨ててしまったように見えます。これによって新聞業界は政府から口を塞がれてしまったといえるでしょう。同じような状況になるのであれば、軽減税率を放棄することもありえます」

 出版人としての矜恃を持つのか。あるいは、政府におもねり業界まとめて自殺をするのか。最終的な結論は、4月までには出される見込みだ。
(文=ルポライター/昼間 たかし http://t-hiruma.jp/

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これからどうなっていくのか…意識して見守りたい。

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