【劇場アニメレビュー】気合の入った描写は一見の価値ありも、“意あまって力及ばず”、周辺の設定も残念だった『ガラスの花と壊す世界』

2016.01.13

『ガラスの花と壊す世界』公式サイトより

 アニメーション化するための原作(マンガ、ノベル、プロット、イラスト、音楽など、あらゆる表現方法でOK。応募資格は無制限。ジャンルも不問)を募集し、優秀作はポニーキャニオンがアニメ化するという2013年「アニメ化大賞powerd by ポニーキャニオン」にて、多くの応募作の中から見事に大賞を受賞した創作ユニット“Physics Point”のシナリオ&イラスト『D.Backup』を原案に、TVアニメ『AIR』『CLANNAD』(ともに作:Key)の志茂文彦が脚本を、ライトノベル『変態王子と笑わない猫』(メディアファクトリー)のカントクがキャラクター原案を、そしてTVアニメ『新世界より』(作:貴志祐介/講談社)の石浜真史が監督を務めたオリジナル・アニメーション映画『ガラスの花と壊す世界』。

 昨年度の東京国際映画祭でも上映された意欲作がようやく劇場公開された。

 地球上のあらゆる時代の歴史やさまざまな場所などが記録(バックアップ)された無重力空間「知識の箱」の中で、世界を侵食する存在=ウィルスに汚されたデータを消去する使命を帯びて戦い続けるふたりの少女デュアルとドロシー。そんなある日、ふたりはウィルスに襲われている少女リモを救うが、彼女は記憶を失っており……というストーリー展開。

 劇中「マザー」だの「ViOS」だの専門用語めいた言葉も出てきたりして、当然ながらいろいろと細かい世界観の設定も施されているようだが、いちいち真に受けながら鑑賞していると訳がわからなくなってくる。

 つまりは性格が正反対のデュアルとドロシーの働きによって平和が保たれていた「知識の箱」に突如、第3のプログラムたるリモが入り込んできたことで、彼女の正体や、その謎が明らかになることによって生じるクライマックスなどがお楽しみといった構成なわけで、要はコンピュータの中のアンチ・ウィルス・プログラムを擬人化したお話と思えばわかりやすい。
 
「知識の箱」内の青や紫を基調としたきらびやかな美しい世界と、それをおびやかすウィルスのグロテスクな造形の妙、それらに立ち向かう少女たちの勇姿もさながら、ときにウィルスに圧倒され、侵食されかかるときの負のエロティシズムとでもいったさりげなくもおぞましく凌辱的にも映える描出は、少女たちのロリータ的個性とも相まって、無重力空間の不安定さとドラマそのものの隠された闇とがシンクロしていく効果をもたらしているようだ。

 侵食されていくデータを消去する冒頭のくだりなども、クールに覆われつつもどことなく哀しい情緒が漂い、またそれらはドラマ後半のフックにもなっていく。
 中盤での3人の少女が戯れ、そこに挿入歌が流れるといった、あたかもアイドル映画の定番的図式なども、そういう企画意図も含まれているのだろうと思えば許容範囲ではある。

 総じてA-1 Picturesの作画や横山克の音楽、そして声優陣の初々しい好演などは大いに讃えたいところだ。

 ところが後半、いよいよリモの正体が明らかになっていくあたりから、そこまで幻惑的かつスムーズに進んでいた作劇が急速に停止するかのように全てが台詞で説明されるのみで、画とのコンビネーションもギクシャクし始めていき、そのうち何が何だかさっぱりわからなくなってしまったのは私だけか?

 いや、どういう理由なのかは見ていれば感覚的に大方察しがつくのだが、それを妙にこねくりまわしたような表現で演出しているのがもったいないのだ。『2001年宇宙の旅』を好例に、難解なものを難解なものとして楽しむのもまたエンターテインメントであると私は思ってはいるのだが、ここでの難解さはスタッフの気負いからくる「意あまって力及ばず」状態のように思えてならない。

 また、これは先に述べたエロティシズムの描出とも逆説的に関連してくるのだが、ところどころ、この題材で無理にそんな悩殺的なアングルを見せなくても……といった箇所がいくつかあり、そこが妙に気になってしまったのは、こちらのオヤジ目線ゆえか?

 昨今の深夜アニメ作品などを標的とするフェミニズム的糾弾に肩入れする気などさらさらないのだが、せっかくの意欲的なSFファンタジーで、可愛いキャラクターを構築し得てもいるのだから、もっと“映画”として広義に観客を獲得するための配慮がなされてもいいように思えるのだが、いかがなものだろう。

 もちろん、本作のメイン・ターゲットは10代から20代のアニメ・ファン男性ではあるだろうから、こちらがロリータ的で少し照れ臭く思える部分もさほど意識していないのかもしれないし、やはり若い世代は大なり小なりエロティシズムを求めたがる傾向があることも理解できる。

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