こんな映画好き女となら付き合いたい アサイ『木根さんの1人でキネマ』第一巻

1601_kine.jpg『木根さんの1人でキネマ』(アサイ/白泉社)

 アサイ『木根さんの1人でキネマ』第一巻(白泉社)は、30ン歳の女がぼっちで映画を観る物語ではありません。第2話で、そんなに親しくもないのに、浮気夫が真っ最中なのに出くわして、家を飛び出した親しくもない同期の水城さんが転がり込んできたせいで、一人で映画を楽しむ時間もないのです。

 そんなフラストレーションも相まって、木根さんの映画愛はさらに熱くなり、物語が盛り上がるという趣向です。

 そんな木根真知子さんは、少なくとも水城さんが転がり込むまでは、休日には映画を観て感想をブログに書くことを趣味にしてきました。いや「趣味」という表現は正しくありません。映画を鑑賞して、一喜一憂することは彼女の人生そのものだったのです。

 そんな木根さんの映画人生のスタートは、兄がテレビで観ていた『ターミネーター』。以来スイッチが入った木根さんですが、映画を熱く語り合える友達はあんまりいません。物語で登場する映画は、2話以降『インディ・ジョーンズ』シリーズや『スターウォーズ』シリーズ。『バイオハザード』や『ゾンビ』に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などなど。あれ、意外に普通のメジャー作品です。ゴダールを観て、なにか選民意識にかぶれているわけでもありません。ましてや『不思議惑星キン・ザ・ザ』のようなマニアックな映画は出てきません。

 なのに、なんで映画を語り合える友達に出会えなかったのか。その理由は、木根さんの回想でほのかに浮かんできます。まず母親が『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』を観て、子どもが観てはいけない映画だと思うようなタイプだったのです。また、青春期に友人たちが『タイタニック』に感動してたことを回想するシーンでは「船が真っ二つに割れて人がボトボト海に落ちるところが私的クライマックス!」とは思ったものの、白い目で見られることを恐れて言い出せませんでした。せっかくできた彼氏に観たい映画を聞かれた時には『ヒューマン・キャッチャー』といってしまい、即フラれたことも。

 とことん、家族にも友人にも男関係にも恵まれてこなかったんですね。なんて哀れなんでしょうと同情を禁じ得ません。

 なにせ、普段は社会人として完璧に「擬態(本人のセリフより)」している木根さんは、玄関を一歩出ると可憐な美女。おまけに会社では課長です。それなりに優秀な人間のはずなのに、出会う人との運のなさが可哀想すぎます。だいたい『ヒューマン・キャッチャー』くらいでドン引きするような男って、どんだけ器が小さいのでしょうか。

 そんな出会う人との運のなさの頂点が、タイトルの「1人でキネマ」の部分を破壊した水城さん。離婚した後、居候を決め込んだ彼女はいろいろとめんどくさい人です。もちろん、映画に興味がないわけではありません。木根さんが、これぞと見せた『バッドボーイズ2バッド』には超絶感動してくれます。でも、彼女の映画の感想とは、極めて政治的に分析して語ることです。この感想の部分、マンガとは思えない文字数でコマが埋まり、木根さんもドン引きです。

 とにかく周囲は熱い木根さんの映画愛を理解しきれてはいない。理解してくれる同志に出会えたかと思いきや、期待外れだったりもする。それでも、木根さんは映画愛を語り続ける。読了後には、必ず映画を観に行きたくなる作品でしょう。

 なお、木根さんは家の中ではダサい格好なのに美人。そこに作者の趣味なのか、やたらとお尻や下着のラインのアップが描かれるので、新たなエロスを垣間見せてくれる作品でもありました。
(文=大居候)

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