「姫乃たまの耳の痛い話」第30回

テレビに出て、有名になって、彼を見返して……アイドルを辞められない女の子が見続ける夢

■目立たなかった日々からの脱却

151231_himeno_2.jpeg来年もゆるゆると頑張りますよ〜

 絵が上手だった彼女は、小学校の人気者であり、中学校では美術教員からの過剰な贔屓によって、冷やかしや、妬みの対象でありました。大きないじめこそないものの、目立たないようにしようという姿勢が身につき、高校生になってからも、大人しい子たちが集まるグループでひっそりと過ごすようになりました。グループで疎外されることはありませんでしたが、ひとりになりたくないみんなの気持ちがひしひしと伝わってきて、彼女は息が詰まるようでした。常に寄る辺なさを感じていた彼女のよりどころとなったのが、バイト先の喫茶店です。小規模ながらギャラリーが併設された喫茶店には、いままで出会ったことのない自由な大人や、彼女の知らないことを体験している同世代の子が集まっており、それが彼女には居心地がよかったのです。自分が身を縮めて生活していた間にも、個展を開いたり、自分の絵で商品を作って販売したりしている同世代の子がいて、それはとても衝撃でした。

 その喫茶店で彼女は、ひとりの客と知り合いました。ギターの弾き語りをしている男性です。

 寂しい、泣くような声で歌う人でした。いつも履き古したシーンズに、ぼろぼろのサンダルを履いていました。

 男に誘われて、喫茶店の店長と一緒にライブを観に行ったこともあります。小さなステージが併設されたバーには、彼女と店長と、バーの常連らしきおじさんが酒を飲んでいるだけでした。がらんとしたバーの中、それでも歌い続ける男の泣くような声は、寄る辺なかった彼女の心に沁みました。ひとりでいる姿をみて、「自分だけがひとりではない」と思ったのです。彼女は男に親近感を抱き、店に遊びに来ると、閉店してからも延々と他愛ない話を繰り返すようになりました。

 他愛もない話が、思い出話になり……打ち明け話になり……話すことがなくなった時、男は恋人になりました。彼女が17歳、彼が32歳の頃の話です。

 彼女はすぐに彼の家に入り浸るようになり、学校へもバイト先へも、そこから通うようになりました。料理や、ライブハウスや、音楽をやっている彼の友人や、転がっている作曲ノートや、ギターや、すべてが彼女には新鮮でした。

 そんなある日、彼女に嬉しい誘いがありました。バイト先で個展を開いていた20代の女性から、「一緒にアイドルグループを組まないか」と誘われたのです。アイドルのことはよくわかりませんでしたが、これまで大人しく過ごしてきた日々が、人気者だった小学生の頃に戻るようでした。

 何より、自分も人前に立つようになれば、彼と同じ舞台に立てるかもしれません。ゆくゆくは彼に曲をつくってもらって歌うこともできるかもしれません。まだ暫定だらけの誘いを、男の家までうきうきと持って帰りました。

 しかし、男から返ってきたのは「オタクにいやらしい目で見られるわけでしょ?」という冷たい反応でした。四畳半の部屋、驚いた彼女と、顔をしかめたままの彼氏。その話はそれで終わり、それから彼女も彼もその話題を持ち出すことはなかったので、彼女はそのまま何も言わず、少しだけ後ろめたい気持ちでライブデビューしました。彼に水を差されても、人前で歌ってみたい好奇心はとめられなかったのです。それに、そんなに非難されることではないと思いました。そしてやはり、芸名やグループ名を決めたり、歌の練習をするのは、とても楽しいことでした。

 一緒にユニットを組んだ20代の女の子は、少ししか年上じゃないのに、意志が強くて、行動力もあって、尊敬できる人でした。共演する地下アイドルたちも、想像していたより陰険ではなく、むしろさばけた女の子が多くて、彼女は予想していたよりもずっと地下アイドル活動に夢中になっていきました。

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