やたら眉毛の太いボンド! さいとう・たかを版『劇画007』の4作品が再刊

2015.12.28

『007 死ぬのは奴らだ 復刻版: LIVE AND LET DIE』(さいとう・たかを/小学館)

 映画『007 スペクター』の余波を受けて、劇画の巨匠である、さいとう・たかを作の劇画版007が小学館から再刊された。さいとう作の劇画版007はかつて1964年から小学館の雑誌『ボーイズライフ』に連載されたもの。今回は「死ぬのは奴らだ」「サンダーボール作戦」「女王陛下の007」「黄金銃の持つ男」の4冊でリリースされることになる。

 まず「死ぬのは奴らだ」を読了したので、紹介することにしてみよう。この作品、映画版はボンド役がショーン・コネリーからロジャー・ムーアに交代した最初の作品としても知られている。コネリーのボンドがハード路線だったのに対して、ムーアは軽いボンドを演じた。とりわけ、ムーアの出演作は後半になると、ユーモラスが度を超して「ふざけてんのか?」となっており、映画ファンの間でも評価が分かれるところ。

 出演作の前半では、ユーモアは控えていたと思うのだけれど、コネリーがボンドを演じた最終作(註:『ネバーセイ・ネバーアゲイン』は知らない映画です念のため)である『ダイヤモンドは永遠に』の後に『死ぬのは奴らだ』を続けて鑑賞すると、度肝を抜かれることウケアイである。

 やっぱり、さいとう・たかをも、ムーアには違和感を覚えたのだろうか。劇画版の007で目指されているのは、コネリー演じるボンドの路線である。そして、この作品はちゃんと版権を得て描かれた正式な劇画版だというのに、まったくのオリジナル作品として展開していくのだ。

 共通しているのは、おなじみCIAのフィリックス・ライターと協力して、敵のボスであるMr.ビッグを倒すプロットくらい。あとは、ひたすらピンチ→アクション→解決という展開が続いていく。事件に美女が絡んだり、美女に助けられたりはするけれども、さいとう版007は禁欲主義的である。「我々の仲間には、きみのような美人はいない」とか、気の利いたセリフはいうけれども、あまり女性に積極的ではない。加えて、やたらと敵に捕まっては脱出する展開が多めである。

 この作品は、さいとう・たかをが貸本マンガから雑誌連載へと移行する最初期に位置する作品だという。そこで生み出された男性読者にウケそうな熱いキャラが、この007であり、やたらと多いピンチは、読者に「次回も楽しみだ」と思わせる工夫だと見て取れる。

 そして、もっとも気になるのは作品で描かれる007が、やたらと眉毛が太いことである。すでに既に、この後に生み出される名キャラクター・ゴルゴ13を彷彿とさせる要素が入っているのである。

 後年のゴルゴとの違いは、やたらと話すことである。ゴルゴも初期(40巻くらいまで)は、やたらとセリフをしゃべっていたのだけれど、この作品の007は、さらにセリフが多いのも、特徴の一つだろう。

『ゴルゴ13』を知らぬ人はいないだろうが、意外に初期作品が知られていない、さいとう・たかを。これを気に、興味を持つ読者が増えてくれることを願う。
(文=是枝了以)

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング