ひなた華月『雛菊こころのブレイクタイム』作者の「デビューできた嬉しさ」も伝わってくる幸せな物語 

ひなた華月『雛菊こころのブレイクタイム』作者の「デビューできた嬉しさ」も伝わってくる幸せな物語 の画像1『雛菊こころのブレイクタイム』ひなた華月『雛菊こころのブレイクタイム』作者の「デビューできた嬉しさ」も伝わってくる幸せな物語 の画像2(ひなた華月(文)・笹森トモエ(絵)/講談社ラノベ文庫)

 作者の名前が、すでにほんわか感を出しているのですが、読了した後に考えたのは作者は相当、心の綺麗な人ではないかということです。殺伐としたライター稼業の中で、ほんのりと幸せな気分にさせてくれた、ひなた華月(文)・笹森トモエ(絵)『雛菊こころのブレイクタイム』(講談社ラノベ文庫)。

 作者は、この作品がデビュー作だそうですが、物語も面白いが作者がデビューできて感激しまくっている歓びが半端ない一冊になっています。

 物語の舞台は学園。フィクションなんだけど「ああ、こんな人生を体験できたらよかったなあ……」という、羨ましくなりつつ登場人物たちの心が満たされていく展開を応援したくなるのです。

 主人公・小田伊莉也の実家は喫茶店です。物語は、その喫茶店から幕を開けるのですが、実在したら喫茶店好きなら必ず行きそう。近所にあったら、朝晩必ず通いそうな行きたくなる店の描写です。主人公は、その店の魅力は、幼い頃から自分も近づきたいと憧れている父さんの淹れるコーヒーだと語ります。

 一杯のコーヒーだけでお客さんを笑顔にさせることができる凄い人が、ボクの父さんなのだと、小さいころからずっと憧れの存在だった。

 このお店にくる常連さんは、一人で本を読むために、買い物終わりの休憩のために、仕事帰りの一息のために、理由はまちまちだけど、ボクの父さんのコーヒーを求めてやってくる。

 なんか回転率の悪そうな店だな。商売厳しそうだな。などという、俗世の垢にまみれた考えが瞬く間に浄化されていくような気がしました。

 そんな店で一度だけ出会った女の子。金色の髪と、白い素肌が特徴的だった美少女に、伊莉也は、また会いたいと思いを募らせていました。

 その純粋な思いは入学した高校で、ようやく叶います。いつも生徒指導室にいて、生徒たちの相談に乗ってくれる「お雛様」と呼ばれる女生徒。それこそが、伊莉也が出会いたかった2年生の雛菊こころだったのです。

 心理学に興味があるという、こころは指導室に置いてある本を読んで勉強するつもりが、いつの間にか相談に乗るようになったというのです。そして、この娘ってば初対面なのに心理的距離を縮めるために、自分のことも下の名前で呼ぶように伊莉也にいいます。

 やっぱり、俗世の垢にまみれている筆者としてはですね……心理学に興味があるという女の子の9割方は「カウンセリングを受けるのはお前じゃ」というタイプだったなとか、「何を思わせぶりな態度を取ってるんだ」そんな気持ちも覚えます。でもね、作者の筆力が、そんな汚れを落としてくれるんです。気がつけば、筆者もすっかり、こころに心を奪われて読み進めておりました。

 コーヒーを淹れるのが得意ということで、こころの助手になった伊莉也は、持ち込まれるさまざまな相談やトラブルを一緒に解決していくことになります。相談にやってくるのは、部の雰囲気がトゲトゲしていることに困っているバレー部の部長や、恋に悩む上級生などなど様々です。

 しばしば、心理学の用語を使う、こころだけど、素人の伊莉也にもちゃんと解説。相談へのアドバイスも、決して押しつけがましいことなどありません。なぜか、勝負を挑む占い師の生徒が乱入してきたりもするけど、こころはいつも穏やかなのです。

 やがて物語は、こころが相談を聞くようになった過去の出来事も描いていきますが、盛り上がりの結末では、お互いが好意を持っていることがちょっとだけ明らかに。その好意の描き方が、また絶妙なのです。

 そんなわけで、ぜひ続刊を期待したい作品なんですが、後書きでは作者の諦めずに小説を書いてきてよかった! という思いが全開です。

 単に幸せな気分になるだけでなく、表現することを志しているすべての人に読んでもらいたい作品ですね!
(文=大居候)

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