看護師とマンガ家

二度と戻りたくない看護学生時代に重ねて…医療ファンタジー『リヒト』を描いた現役ナースの素顔

 今年10月に第1巻が発売され、話題となった『リヒト 光の癒術師-ハイレン-』(小学館クリエイティブ)の第2巻が早くも12月11日に発売される。同作は、連載型新作マンガ配信サービス「GANMA!」で連載中の『LICHT-リヒト-』をまとめた単行本だ。

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 物語は、主人公ティナが、人々を癒す『癒者(いじゃ)』の最高位、ナイチンゲールを目指すというもの。

 よくあるロールプレイングゲームのような世界観だが、主人公が“ヒーラー”というのはとてもめずらしい。ロールプレイングゲームの世界観での「癒やし」は、ヒーラー、白魔道士、などと呼ばれる魔法使いが、手をかざすだけで治してしまって、そこに壮大なストーリーは組み込まれていないからだ。

 まあ、それも、ダンジョンに入ってケガをするたびにICUに入って、半年間入院していては、話が進まないから仕方がない。

 そんな中、『リヒト 光の癒術師-ハイレン-』はあえて、ファンタジックにヒーラーにスポットを当てている。しかも、登場する術は、とてもリアルなのだ。

 実は、それもそのはず。作者である明(みん)さんは、HCU(高度治療室)で活躍する現役のナースだという。

 なんとも高度な二足のわらじを履く彼女に、話を聞いてみた。

* * *

——早速ですが、看護師をしながら、マンガ家を目指したきっかけから教えて下さい。

 看護師って、就職してから3年目にバーンアウト(燃え尽き症候群)してしまう事が多いんです。とにかく最初の1〜2年は忙しくて、仕事漬けで、悩む余裕もない。それが3年目になると少し余裕ができて、いろいろ考えるようになっていくんです。その悩みを病院にまで引きずることもあって……「このままじゃダメだな」と思い、何か趣味を始めることにしました。今までやってみたかったけど、やってこなかった事をやってみようと思ったんです。

 それで、最初は絵本を描こうと思ったんですけど、しばらく描いて、「これは違うな……」と思って、いろいろ試行錯誤しているうちにマンガに行き着いたんです。と言っても、マンガを描いたのも初めてで。しばらくはボールペンで原稿を描いていて、ずいぶん経ってからGペン(作画時などに用いられるつけペンのこと)の存在を知ったほどでした(笑)。

 誰かに習ったりはしていないので、とにかく好きなマンガを先生にして、コマ割り、ベタ、髪の描き方……など、一つずつの工程を、階段をのぼるように上手くなろうと思っていますね。

——看護師もマンガ家も忙しい仕事の代名詞のような職業ですが、両立させるのは難しくなかったですか?

 確かに看護師の仕事は忙しいですが、夜勤の後は、日中が空いているので、夜勤明けでそのままマンガを描き続けたりしています。途中、気がついたら15分くらい机で寝ていることもありますけど、体力には自信があるんですよ。スポーツも好きで、今でも合気道とヨガをやってますし。たださすがに、最近はもう少し無茶をしないようにしなきゃなと思ってますけど。

——看護する側がされる側になってしまったら大変ですからね。それにしても、最初から看護のマンガを描こうと思ったのですか?

 いえ、全然そんなつもりはなかったんです。最初の頃は、パンダが地獄で人を救う話を描いていましたし(笑)。ただ、もちろん、いずれは看護を描いてみたいという気持ちはありまして。「GANMA!」で連載をさせてもらえることになった時、いろいろ企画を出した中で通った作品が、『リヒト』だったんです。

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——看護の世界を描くに当たって、『リヒト』の世界感をリアルではなく、あえてファンタジーにした理由はなんだったんですか?

 もともと自分が好きで読んでいたマンガが、『ONE PIECE』や『HUNTERXHUNTER』(共に集英社)など、ファンタジー要素の強い作品が多かったんです。なので、そもそもファンタジーな世界観で描くこと自体に違和感はなかった。それに、リアルな医療マンガだったら、拒否反応を示す人もいると思うんです。グロテスクに感じたり、精神的に受け入れづらい描写になったりするので。むしろ、私自身もそうで、リアルな医療現場を描くよりも、むしろ舞台をファンタジーにすることで、マンガとしてできる事を広げたかったんですよ。

——ファンタジーにしたことで、描き方が難しくなる部分も出てきませんか?

 作中の医療技術をどのレベルにするのか、医療道具の名前はどうしようかなどは悩んでいますね。逆に、現場で人と接する部分は、とてもリアルに書いています。命にかかわる姿勢というのは、リアルであれファンタジーであれ、どんな場所でも基本的には同じだと思いますので。そこさえ押さえられれば大丈夫かな? と思っています。

 私は、HCU(高度治療室)で働き初めて5年めなんですが、そこに来る患者さんは、手術直後の方や、状態が落ち着かない方たちです。現場で、患者さんが亡くなられる事もたくさんあります。

 マンガを書く時に、患者さんが亡くなった時、どんな気持ちだったのか? と思い返すのですが……そういう時、新たな気づきもあるんです。その気づいた事を看護の現場に持ち帰って、逆に医療の現場で役に立った事もあります。

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