『魔女の宅急便』を現代日本でやったら、こうなる……『現代魔女の就職事情』第1巻

1512_gendaimajyo.jpg『現代魔女の就職事情』(KADOKAWA 原作/相沢沙呼 画/はま)

 本格ミステリの公募賞である第19回鮎川哲也賞でデビューした後、ライトノベル方面へとジャンルを広げた作家・相沢沙呼が原作を担当(画/はま)する『現代魔女の就職事情』第1巻(KADOKAWA)。

 どう見ても、あの国民的アニメ映画になった有名作品である。いやいや、堂々と『魔女の宅急便』をベースに描かれた作品である。

 物語は、15歳になった魔女・玉城禰子が、魔女の修行のために海沿いの見知らぬ街にやってきたところからスタートする。

 どこかの人情溢れるヨーロッパみたいな街を舞台に描かれた『魔女の宅急便』と違って、この物語は現代設定である。魔女の存在はみんなが知っている設定ではあるけれども、そうそう上手くはいかない。何より、ヒロイン自身が今まで東京に住んでいたので、やってきた街が田舎すぎて、あ然としてしまうのである。おまけに現代社会は思った以上に冷たい。誰も魔女を名乗っても興味は持たず反応は微妙。興味など抱かないし「呪われるんじゃないかな」とビミョーすぎる対応だ。

 助けてくれた同い年の女の子・中嶋さんは、珍しく興味を持ってくれるけど、そのお母さんは泊まってもいいとはいうものの「呪いとか魔法とか変なことしないでちょうだい」とナチュラルに偏見丸出しの対応を。

 そう、この作品がなんだかスゴイのは、単に魔女っ子の努力や友情を描くのではなく、あちこちに罪悪感なく偏見を持っている人々が登場することなのである。タイトルに「現代」と入っているのが生きているのは、まさにこの部分であろう。ヒロイン自身も、ホウキで空を飛ぶことを除けば、まともな魔法が使えるわけではない。それ以上に、人々は悪意なく偏見と無関心とを同居させているのである。

 インターネットの普及によって、ここ20年ほどで人間同士の関係というものは、大きく変容した。誰もが、いつでも無限の情報にアクセスできるようになれば、人間は多様性に気づきより寛容で理想的な社会が生まれる。そんなことが夢見られた時代もあったけど、実際には人々は小さなクラスタにまとまり、他者に厳しく偏見を増幅させるイヤな世の中になってしまった。描かれる物語の背景には、そんな現代社会のイヤな側面が、ぷんぷんと匂うのである。

 とはいえ、そんな現代社会の負の側面を背負わせつつも、物語は希望に満ちている。少々アホの子なヒロインは、決してくじけることがないからだ。さらに、最初にヒロインを助ける中嶋さんや、飢え死にしそうなところにケーキを恵んで(笑)くれるパティシエの陽向さんなど、将来に希望を持っている登場人物は、魔女ということを気にすることもなく暖かい。

 現実でも、何かの目標をもって生きているような人や、それを成し遂げた人は偏見や他者を貶めるような言葉は吐かないもの。『魔女の宅急便』を現代でやったら? を出発点にほんわか描きながらも、実に読ませる期待の作品である。
(文=是枝了以)

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