エロゲーよ、萌えているか?

エロゲーメーカーを“自縄自縛地獄”に陥れる“必須要素”とは?【ぶっちゃけエロゲー界ってどうよ?連載(2)】

エロゲーメーカーを自縄自縛地獄に陥れる必須要素とは?【ぶっちゃけエロゲー界ってどうよ?連載(2)】の画像1左、TYPE-MOON 右、ニトロプラス 各公式サイトより。

 さて、21世紀の初めごろからエロゲー専門誌に携わるエロゲーライター・佐藤氏(仮名)に、エロゲー業界の現状をざっくり語ってもらうインタビュー連載第2回である(全4回予定。ただし予定は未定)。

 出版における発行部数やCD・DVDのオリコンによる数字のような、オフィシャルな売り上げ本数の数字がエロゲーにはないこと、そして景気が悪化していることを語ってもらったが、なぜそんな状況になってしまったのか。そのへんのところを聞いてみた。

―― 数字に限らず、現場の雰囲気も、元気だったころと比べて寂しくなった実感はありますか?

佐藤「……寂しくなりましたね。というのも、前回の“歴代売り上げ”で触れたような大手メーカーは、市場を変えようとしているんです」

―― コンシューマーや全年齢版とかですね。

佐藤「といっても、外に出ざるを得ない部分もあるんですよ。エロゲー業界で売り上げを伸ばせる、黒字をちゃんと出し続けられる芽が見えるのなら、そのままでよかったんだと思います。でも、PC向けゲームとコンシューマー向け、どっちが儲かるか? という話ですよ。会社は存続しないといけないので、利益が期待できない業界で頑張ってもしょうがないじゃないですか」

―― クリエーター個人としてはエロをやりたい! という気持ちがあっても、変えざるを得ないと。

佐藤「いいゲームを作るにはグラフィックだ何だと、優秀な人材がいる。優秀な人を会社に置きとどめようと思えば人件費がかかる。それを維持する手段として、向上心のあるメーカーが、コンシューマーなどの市場に魅力を感じるのも仕方がないことだと思います。もちろんエロにこだわって奮闘しているメーカーもありますが、フルパッケージの価格帯(8,800円)で勝負できているところは少なくなっています」

―― なるほど。ちなみに、個人によって違うんでしょうけど、今はエロではない場所で勝負している人たちって、エロやりたいなぁ、と思っていたりするものですかね?

佐藤「思っているんじゃないかな、個人としては。基本、好きでないと、そもそも入ってこない業界ですからね、エロのほうがリリースしやすいという背景はあるにしても。例えばニトロプラスは18禁ならではの暴力・グロ表現をやれる土壌としてエロゲーを選んだ節がありますけど、わざわざ入ってくる人はエロゲーが嫌いではないと思うんですよ」

―― 18禁への熱い思いはあると。

佐藤「ある、と思う。でも自分たちが面白いと思うものを作ろうとしても、やっぱり生活がかかっているわけですから、情熱だけで制作に乗り出すのは難しいと思いますよ」

―― TYPE-MOON、虚淵玄さんなどは、今はエロゲーではない市場で活躍されています。業界人として応援しているのか、それとも寂しいと思うのか、どっちですか?

佐藤「そりゃ、業界に身を置く者としては市場が活性してくれた方がいいので、優秀なクリエーターやメーカーには業界にいてほしいです。ただ個人的には面白いコンテンツになるのなら、市場はどこでもいいんじゃないかなと思っています。“これは面白い!”というアイデアを思いついたときに、またエロゲーを作ってくれるとうれしいですね。むしろ寂しく感じるのは彼らがいないことより、かつての名作の劣化コピーみたいなゲームが増えている方かもしれない。憧れる気持ちや作品を好きな気持ちは否定しませんが、ゲームを面白いとは思えなかった」

※『魔法少女まどか☆マギカ』をはじめとするアニメのシナリオ、小説『Fate/Zero』シリーズで知られる虚淵玄は、もともとはメーカー・ニトロプラスの社員シナリオライター。『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』でデビュー以降、『鬼哭街』『沙耶の唄』『続・殺戮のジャンゴ -地獄の賞金首-』など、エロゲーファン以外からも高く評価される、クセの強い作品を手がけた。また、『Fate/stay night』シリーズのTYPE-MOONは、18禁同人ゲーム『月姫』がデビュー作だが、2005年にリリースされた『Fate/hollow ataraxia』以降、18禁作品のリリースが途絶えているようだ。

■目標は○キロバイト!? お得な長時間プレイのためにテキスト水増し

 

―― 紙芝居だ何だと揶揄されながらも、最近は製作費が以前より上がってきていて、どうせ製作費がかかるなら市場を変える、という傾向があるのでは? と思ったんですが。

佐藤「う~ん……まずその前に、メーカーが自分たちに、“必須要素”を課しすぎている面があると思うんですよ」

―― ああ、この要素がないと売れない! みたいな。

佐藤「萌え系だったら、アニメのように主題歌がないといけないとか。でも主題歌の製作費には100万近くかかってしまう。そういう“必須要素”を増やした結果、総製作費がどんどんかさばる。シナリオにしても、小説は厚かろうと薄かろうと、面白さそのものは変わらないじゃないですか。でも最近のエロゲーメーカーは、テキストがどれぐらいの量、何キロバイトあるか、ということを重要視しすぎている傾向があるように思います」

―― 総プレイ時間が10時間と30時間だったら、30時間のほうがお得と考えるユーザーが多いんでしょうね。

佐藤「物語を書いたら凄いボリュームになってしまいました、ということならいいんです。最初にテキスト量ありきで物語を書く風潮があって、そうなるとボリュームアップのためのテキストになってしまう。そんな手段と目的が入れ替わったシナリオが面白いわけがないですよね。仮にすごいボリュームの良いシナリオが出来たとして、でも販売価格も製作費は据え置きのまま。ではCG枚数を削るのか? 答えはノーです。こちらにも価格帯に沿った最低枚数の暗黙ルールがある。というかシナリオが増えているので、比例してCG枚数も増加してしまうことの方が多い。結果、何も削ることができないで製作費だけ増加していく。目に見えて削減しているのは広告費ぐらいでしょうか。雑誌などではほとんど見かけなくなりましたね」

―― 女優の中身のないインタビューが30分も続くダメなエロDVDみたいですね、とにかく収録量を増やせという。

佐藤「そう、結局は水増しじゃないですか。薄く長く伸ばしているだけ。面白くするために自然と増えるのであればいいんですけど、“目標のキロバイトまで、あと1万字、どうにかして増やさねばならぬ”という増やし方になってしまっているんです。でも、労力はかかるし、製作費はかかるしで、ボリュームだけを目指すと、良いことがないんですよね。本来は製作費や日程の制限がある中で、最大限良いものを作るために増やしたり、逆に削ったりする努力をすべきところだと思うんですけど……」

―― とりあえず、自分で課したボリュームを埋めることに一杯一杯になっている?

佐藤「そうですね。必須項目が多すぎるんだけど、どれも削れなくなっているんですよね。音声にしても最近では必須事項みたいになっていて。これもかなり負担だと思うんですけど」

―― これまでボイスを入れてこなかったアリスソフトの『ランス』シリーズも、『ランス03 リーザス陥落』から、ついにボイス付きになりました。苦渋の選択っぽい感じでしたけど。

佐藤「実際、長年にわたってつけこなかったので苦渋の選択だったと思います。でも流行であるとか、作品に“必要だ”と考えて入れたのならいいんです。でも、予算がないのに無理して入れることはないと思うんですよ」

―― 律義にフルボイスじゃなくたっていいですよね、主要なところだけにするとか。

佐藤「Hシーンだけに絞るとかね。フルボイスにしたことで、肝心のストーリーがつまらないと感じさせてしまったら、せっかく入れたボイスだって全部スキップされちゃうんだから」

■今の流行に乗っからないと、ユーザーは買ってくれないという思い込み

 

―― そういえば、どこかのインタビューでアニメのプロデューサーさんが「虚淵玄さんの生産量はすごい。やっぱりエロゲーの膨大な文字数に比べれば、アニメの脚本も生産量的につらくないんだろう」みたいなことを語っていたのを読んだことがあります。

佐藤「TVアニメは1話30分、1クール12~13話という制限がありますけど、エロゲーの場合、テキストだけだったら無限大に入っちゃいますから。虚淵さんに限らず、エロゲーシナリオライターの生産量はすごいですけど、本来はどこかで制約を自分たちで作るべきだと思いますね」

―― 1万字だろうが、10万字だろうが、JPEG1枚のほうが容量は重かったりしますものね。

佐藤「結局、面白さの基準をバイト数、CG枚数に置いてしまう風潮が一部にあるので……」

―― 他にも、エロゲーメーカーが自らに課している“必須要素”はあるんですか?

佐藤「エロシーンの回数とかですかね」

―― ヒロインは3回ずつ、みたいな?

佐藤「昔は各ヒロイン1回ずつという作品が多かったんですけど、物足りないっていう声が大きくて。どんどん回数と1回毎の濃密さというのが高まってます。ただCG枚数は作品ごとにだいたい決まっているので、結果ヒロイン数がどんどん減るといことに(笑)」

―― 攻略キャラが減ってしまってるんですか。

佐藤「それでも、ヒロイン数を極力減らさないように、メーカーも工夫はしているんですよ。CGは全部エロシーンに回してしまって、日常シーンは立ちポーズのCGのみ、表情パターンを入れることでごまかしたりとか」

―― そういった流行廃りというのは、例えば『Fate』のような化け物級が1本出れば、一掃されるものではないんですか?

佐藤「いや、それがそうでもないですね。高すぎる目標って、挫折してしまうことの方が多いじゃないですか。強力過ぎるキャラクターや世界観は真似しづらいと思いますよ。緑髪のツインテールだと、どれもこれも“これ元ネタ初音ミクじゃん”とか言われそうだし。だから『Fate』以降の数年はエロゲー業界に限らず、オタ業界全体で吸血鬼作品は避けていたように思いますよ。見かけたのは同人くらいかな。」

―― しかし、“必須要素”でがんじがらめになってしまうと、杓子定規に過ぎますよね。

佐藤「本来だったらシナリオに沿って、この子は何枚必要であるとか、いや削るべきだとか、そういう調整が必要なのに、そういう考え方はしない。シナリオは何バイトでCG枚数は何枚という枠を決めてから製作してますからね。極端な話、シナリオ量がいつもの10倍だけど、CG枚数は1/10といった作品でも、予算内で制作できて面白い作品になりうるならアリだと思うんですが。今の流行に乗っからないとユーザーが買ってくれないと思い込んでしまっているんですよ」

 ライトノベルでも、一定の作品を“テンプレ”と揶揄する声が絶えないが、ユーザーからの意見に耳を傾けすぎたために起きてしまう現象なのだろう。
“自縄自縛”という単語を思い出さずにはいられない、悲しい展開になってしまったが、次回はさらに世知辛い内容になる模様。期待してお待ちください!

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