板場広志『脱オタしてはみたものの』エロかと思いきや消えていったオタクたちの墓碑銘だった 

 板場広志は、18禁と非18禁両方の雑誌にコンスタントに作品を発表し続けているベテラン作家。とりわけ「漫画ゴラク」と共にオッサン向けマンガ雑誌の双璧をなす「週刊漫画TIMES」のお色気枠の常連となっているという点で、一種希有な作家といえるだろう。

 なぜ、この作家は途切れず仕事が続いているのか? エロというジャンルは、参入も簡単だけれど、飽きられたら終わるスピードも驚くほど速い世界。今はとても売れているエロマンガ家に、編集部にアシスタントを紹介してもらったら昔、興奮しながら読んでいたエロマンガの作者が背中に哀愁を漂わせながらやってきたという話も、しばしば聞く。

 開き直ってコミケの通称ベテラン島、あるいはロートル島で同人誌を売ることができるメンタルを保てる人もそうそういない(90年代どころか80年代後半から活動しているエロマンガ家がざらにいる)。

 筆者は、板場広し名義で描いている18禁の単行本を桜桃書房時代のものから所有しているわけだが、板場の作品はけっこう一貫している。主人公が妖しげなヒロインに振り回される展開が極めて多いのだ。ともすれば、主人公は単なる狂言回し的な役割になることも。

 つまり、板場はエロ重視で読ませるよりも、物語で読ませることに長けているのである。

 そんな板場の非18禁最新作が「週刊漫画TIMES」で連載中の『脱オタしてはみたものの』(芳文社)だ。

 物語の主人公・台東は長年満喫してきたアニメと同人誌のオタクライフを捨て、人生初の彼女・晴海ちゃんをゲットした。10歳も年下の彼女からも愛され婚約もした台東だが、かつてのオタク仲間・板橋から同人誌の原稿を懇願される。かくて、晴海ちゃんにはナイショにしながら仕上げた同人誌。その即売会の会場で出会ったのは、かつてファンだった人気声優の有明るいだった……。

 というわけで、かつての人気声優が、今は仕事もなくて即売会にいるし、自分の同人誌のファンだったという妙に都合のよさげな展開も含めて物語は進んでいく。そして、なぜだか有明が淫靡なお誘いを繰り返してくる中で、非オタ彼女と結婚して平凡な人生を送ろうとする台東の心はブレまくるというわけである。

 この、男性主人公が特段なんの積極性もないのに、周囲の女たちによってエロいトラブルに巻き込まれていくというプロット。これが洗練されまくっているのである。あくまで主観だが、近年の板場の作品を読んでいると、どうしてもエロ重視な18禁よりも、非18禁のほうが物語が骨太になっている。おそらく非18禁雑誌の編集部のほうが、板場の作風をよく理解しているのだろう。

 もうひとつ、この作品が洗練されて読ませる仕上がりになっている理由を教えてくれるのは、巻中、巻末のオマケマンガである。ここで、板場は地元は東北の山の中で声優のラジオを聞くために必死にチューニングを合わせていた。コミケは行列が多くて田舎者の自分は並ぶことができなかった。あるいは、編集から次は本人の経験を踏まえたオタクをテーマにと提案され「面白くない」「自転車にしましょう」というやりとりがあったことなども記されてる。

 結局、この作品が面白いのはそうした作者の「面白くない」体験が背後にあるからだろう。なにせ主人公が一時はプロでマンガ家だったのに、28歳にして脱オタし、職歴無しで必死に就活し現在に至る……とかハードな設定なのだ。自分の周囲にいたかつての仲間たちの墓碑銘としての意義も持つ、作品なのだろうと思った。
(文=ピーラー・ホラ)

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