【今月の不健全図書レビュー】国家権力の介入を招きかねない危うさを象徴──赤星ジェイク『はれもの水風船』

――東京都をはじめ、地方自治体の「青少年・治安対策本部」では、毎月“不健全図書”を挙げ、自主規制団体らと共に審議を行っている。この審議結果は毎回公表されるものの、審査過程での自主規制団体の声が顧みられることはほぼない。エロにせよ何にせよ、どこか尖った作品を大の大人が色々な立場から評価するという、そんな貴重な意見が無視されるなんてもったいない! このコーナーでは、“不健全図書”に指定されたマンガなどを自主規制団体の声と共に紹介していきたい。つまり、クラウド・ファンディング(群衆による資金調達)ならぬ“不健全図書”クラウド・レビュー(群衆による批評)、はじまり、はじまり~!

【今月の指定図書】

 赤星ジェイク『はれもの水風船』(ふーじょんぷろだくと)は、今月のボーイズラブ枠であります。もちろん「枠」なんてないんですけど、もはやボーイズラブが毎月1冊は指定されるのが定番になりつつあります。

 そして、出版元がふゅーじょんぷろだくと。

 古いオタクには「原稿料が図書券だった」伝説でも有名な会社ですね。「いつか訴えられるぞ」といわれながら、商業で二次創作のアンソロを権利元で無許可で出版(むかし集英社の偉い人が「コミックマーケットは許しても、ふゅーじょんぷろだくとだけは許せない」という名言を)。最近も『ONE PIECE』のアンソロ本とか出版継続中ですね。

 ほかにも社長のパワハラで自殺者まで出たり、いわくもあるけど伝統もある会社。それにもかかわらず、今さら不健全図書指定されてしまうのはなぜか。東京都が指定のハードルを下げているのか? いや違う。やはりボーイズラブの作者・編集者の権力観に問題の本質があるのだと筆者は見ています。

 男性向けのエロマンガは長年の伝統で、権力の出方を必死に読んでいます。とりわけ、18禁エロマンガで局部の修正が大きくなったり小さくなったりするのは、時流を読んでいるからです。東京都の不健全図書指定制度にも、刑法のワイセツ罪にも明確な基準などありません。つまり「法令を遵守する」など不可能。すべては権力のお目こぼしの中で行われているに過ぎないのです。

 それを理解していないと、明後日の方向で自主規制をしてしまうバカな編集者も出てくるのです。

 たび重なる不健全図書指定によって、ボーイズラブの作者・編集者も経験値は積んでいると思います。とはいえ、大前提である「エロ本をつくっている」という意識は男性向けに比べて、まだ不足しているのではないでしょうか。現状のままだと、いずれ警察がワイセツ罪でやってくることがあるかもしれません。その前に防衛本能を働かせて欲しいと思いつつ、今回の指定について分析していきましょう。

(以下、別記のない限り、【】内は「自主規制団体からの聴き取り結果」より引用)

 いろいろ書きましたが、この作品自体は引き取られるまで性的虐待を受けていた義弟と兄、そして教師との三角関係を軸にした読ませる作品です。

 そんな作品に対して指定該当として指摘されるのは、セックスシーンの修正の甘さです。

【頻度こそ少ないが、性器描写の修整も甘く、丸見え状態のものもある。また、体液・擬音等の描写も過激である】【BLものであるが、男性器の描き方が露骨であり、成人向けとすべきである】

 さらに具体的に読み込んだ上での意見もあります。【前編は絵柄も綺麗で、男性の純愛漫画風であり、問題ないかと思われるが、後編は、男性器の描写がはっきりした箇所が数カ所あり、指定やむなし】

 前半には、肛門に指を突っ込んでいる描写に修正が入っていないものの、後半になると性描写が濃厚になるのが、この作品の特徴です。修正は入っているのですが、ポイントとなるのは擬音の多さです。とりわけ後半のセックスシーンでは「ジュポジュポ」「ビュルル」といった液体系の擬音。男性向け作品でも18禁表示のあるもので多用されるタイプのものが、執拗に使用されています。

 すなわち、多くの人の目には男性向けならば18禁の自主規制を行うのと同等の描写を含んだ作品であると判断されているのです。

 ですので指定非該当を主張する意見も弱々しく感じます。【BLもので常に思うことだが、「グジュグジュ」等の擬音が多いが、それが卑わい感より、グロテスクに思われる程度である】【耽美もので、一部のファンが楽しむものであり、条例施行規則第15条第1項第一号イ・ロに該当しないと思われる】という意見は、多少無理筋だと読み取れます。

【修整はしてあるが、後半で局部の修整が甘くなってくる箇所が見受けられるが、青少年は興味を示さないと思う】に至っては、完全な主観です。

 繰り返されるボーイズラブへの不健全図書指定。もう一度いいますが、今後、警察がワイセツ罪を疑ってくる別のベクトルからの展開もありえそうです。ボーイズラブの作者・編集者がどのような意識にあるのか、改めて取材が必要だと思いました。
(文=昼間 たかし http://t-hiruma.jp/

今月の自主規制団体の声
【出典】東京都青少年健全育成審議会「自主規制団体からの聴き取り結果」より
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/665/665siryou2.pdf

はれもの水風船

はれもの水風船

マジ兄の発言を思い出しますね。

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