【今月の不健全図書レビュー】『怖い心理テスト』残虐どころか差別と激怒する声も…作者と編集者の底の浅さが透けて見える

2015.11.21

――東京都をはじめ、地方自治体の「青少年・治安対策本部」では、毎月“不健全図書”を挙げ、自主規制団体らと共に審議を行っている。この審議結果は毎回公表されるものの、審査過程での自主規制団体の声が顧みられることはほぼない。エロにせよ何にせよ、どこか尖った作品を大の大人が色々な立場から評価するという、そんな貴重な意見が無視されるなんてもったいない! このコーナーでは、“不健全図書”に指定されたマンガなどを自主規制団体の声と共に紹介していきたい。つまり、クラウド・ファンディング(群衆による資金調達)ならぬ“不健全図書”クラウド・レビュー(群衆による批評)、はじまり、はじまり~!

【今月の指定図書】

怖い心理テスト/雨がっぱ少女群

 久しぶりにエロではなく残虐表現が問題となり指定された『怖い心理テスト あなたの中のサイコパス』(竹書房)。まず、作者からして謎の本です。クレジットには「雨がっぱ少女群 協力:西浦和也」という表記があります。

 雨がっぱ少女群は最近、名義を変えて復活した単行本が話題になっているロリ系のエロマンガ家。西浦はホラーものでよく名前を見かける人です。特段、後書きもないので主従関係はわかりません。

 オビで「クラスに1人はサイコパス!」と煽る本書は、マンガや文章でさまざまなケーススタディを紹介しながら、サイコパスはこのような回答をすると解説していく内容です。

 例えば、介護していた寝たきりの姉を殺してバラバラにした犯人が逮捕された。その死体は2割ほど欠損していたが、なぜ犯人はそのようなことをしたのかというケーススタディ。

 その回答として、正常な人は死体の処分に困ったからなどと答えるが、サイコパスは、介護から解放された気分になるからと記されます。

 そんな陰惨な内容が、妙にインパクトの強い=上手い絵とともに解説されていくのです。

 正直、ホラーとか怪談で感じる恐怖とは別のベクトルの恐怖。読んでいて、イヤな気分が募っていくという恐怖を感じます。読了感は、ひたすら陰鬱。もちろん、みんながハッピーな作品なんてのも、どうかと思います。でも、これは単なる気持ち悪くて陰鬱な気分。読者をそんな気分に陥らせる意図がわかりません。

 作者・編集者ともにビックリドッキリを仕掛けてみただけの、底の浅さが透けて見えます。

 というわけで、1,080円をドブに捨てた感を主観的に書いてみました(何者からも自由な立場で書くために、この記事は自腹です。念のため)。

 果たして、不健全図書指定を受けるに至るには、どのような意見が出たのでしょうか?

(以下、別記のない限り、【】内は「自主規制団体からの聴き取り結果」より引用)

 この本、指定該当とする意見で指摘されたのは、まず描写部分です。【絵はかなり残虐な刺激の強い絵であり、とても青少年には見せられない内容と判断する】【絵もリアルであり、条例施行規則にある「残虐な殺人、傷害、暴行、処刑等が描かれている」に該当すると思われる】。

 いずれも、表現がグロテスク過ぎ残虐性が強いことを問題視しています。その点は、作者の絵が上手すぎたということで、むしろ誇ってもよいところかもしれません。

 けれども、注目すべきは次の二つの意見でしょう。【帯に「クラスに1人はサイコパス」という記述があり、学校生活=学生を読者対象としていることを窺がわせている】【「サイコパス」という表現自体、精神を病んだことで殺人などを犯すものというニュアンスがあり、不適切な表現である。また、医学的裏付けも不明であり、当然のこととして、そのようなものを青少年の目に触れさせるのはいかがなものか】

 この意見は、内容が心理テストと銘打って、科学的な裏付けがあるかのように装いながら、サイコパスという種類の精神病者が社会に潜んでいるという恐怖を煽ろうとしていることを問題視しているのです。まだ、審議会の議事録は公開されていませんが、打ち合わせ会から審議会まで、この点を問題視する意見はいくつも出たそうです。そこでは「作者や編集者が安易にサイコパスという言葉を用いている。これは差別ではないのか」という議論もなされたそうです。

 たとえ、精神病者を差別する意図がなかったとしても、このような書籍を世に送り出す意図はわかりません。ゆえに指定非該当としてながらも【これが本当の「サイコパス心理テスト」なのか、単なる「サイコパス犯罪」の羅列なのか、本誌の趣旨がよく分からない】という意見まで飛び出しています。同じく指定非該当側の意見【潜在的殺人者に気をつけろ、なのか、殺人鬼の心理本なのか、出版の意図が掴めず、判断に迷う。ただし、本誌だけで、青少年の残虐性を甚だしく助長するとは言い難いと感じる】も同様の趣旨でしょう。

 つまり、この書籍の一番の問題点は作者と編集者がなにをしたいのかわからないという点でしょう。もちろん、崇高な理想があるのかも知れません。けれども、それを感じ取ることが出来る人はいなかったようです。

 さて、久々の内容の残虐性を理由とする不健全図書指定。その制度の欠陥を示す現場に、偶然出会いました。11月の指定図書が公表された翌週になっても、本書をサブカルコーナーに山積みにしている書店があったのです。

 筆者が都庁の少年課に「書店の店頭のチェックをちゃんとしてないですよね」と制度の欠陥を指摘する取材をすると「都民からの通報1件」とカウントされるので、やめておきます。
(文=昼間たかし http://t-hiruma.jp/

今月の自主規制団体の声
【出典】東京都青少年健全育成審議会「自主規制団体からの聴き取り結果」より
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/665/665siryou2.pdf

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