“変顔→シリアス”は少女漫画原作映画の鉄則なの!? 鈴木亮平の熱演が逆に女ウケから遠ざかっていた映画『俺物語!!』

1511_oremonogatari.jpg映画俺物語!!公式サイトより。

<少女漫画コンシェルジュ・和久井加奈子による映画『俺物語!!』レビュー>

『俺物語!!』が公開されました。原作漫画が大変お気に入りなので、少女漫画を仕事にしている以上、観に行かねば! てことで行ってきましたよ!

 この作品は、人気漫画家・河原和音が原作にまわり、同じく人気マンガ家アルコが作画という少女漫画家同士がタッグして作られた作品です。少女漫画のヒーローは細身のイケメンという常識を覆し、剛田猛男という、やたらマッチョでがさつ、という新しいヒーロー像を提供したところも斬新でした。とは言ってもなんだかんだ猛男の親友、クールで勉強のできる砂川くんが人気のようですが。

 猛男役は鈴木亮平。体重を大幅増量したことで話題になりました。変顔をいとわず猛男になりきり、大変な好演でした。砂川くんは、最近少女漫画原作の映画にやたら出演している坂口健太郎。彼も、クールな砂川をクールに演じておりました。

 さて、少女マンガに登場する男子がなぜ華奢で細身でナヨナヨしてるかといえば、そうじゃなければちょっと怖いからです。身体が大きく力がある男子が、もし自分に襲いかかってきたら……命が危ない。

 恋愛になれば、精神的なやり取りが出てくるわけで、その中でぶつかることもあるでしょう。そんな相手が怒りっぽかったり暴力的だったりしたら、女は死んでしまうかもしれないんです。だから少女マンガでヒロインとどうのこうのなる男子キャラは、たいてい寛容で理性的で、スポーツは出来るけど筋肉隆々ではないんです。その「女が安心できる男子キャラ」の大前提を覆してしまったのが、猛男です。

 漫画の猛男は「身体は大きいけど、気は優しくて力持ち」で、「まあこういう不器用な男子を好きな女子もいるかもね」と思えるんだけど、これが実写になると……やっぱり怖かったです。

 痴漢や酔っ払いから助けてくれる男性のことを好きになるのは鉄板の展開です。でも見知らぬ大男が自分を助けるためとはいえ、いきなり壁ドンしてきたら、やっぱり怖いと思う。親しくもないうちに顔を近づけてきたり、むしゃむしゃ口にもの入れてしゃべったら、ちょっとイヤです。

 悲しいかな、鈴木亮平は熱演すればするほど、女ウケからはどんどん遠ざかってしまった気がします。せっかく少女漫画原作の映画に出てるのに……!

 漫画ではコマが小さかったからあまり気にならなかったけど、砂川によると猛男は「女を見る目がない」。見た目は可愛いけど陰で人の悪口を言うようなのに惚れるんだそうな。「女慣れしてない」のはいいとしても「見る目がない」のは致命的です。女は常々、こういうブリッコに男がだまされていくのを苦々しく思っているんです。「猛男、お前もか!」と後頭部に火がつく思いです。

 ですが鈴木亮平の変顔が炸裂するのは、ストーリーの前半です。その部分はうっとうしいほどにコミカルに進みます。原作ではわりとあっさりくっついた2人だけど、映画では後半から恋のやきもきが始まり、めでたく両思いになるところあたりで終了です。

 この展開、デジャブーだな……そう、まるっきり『ヒロイン失格』と同じなんですよ。序盤は桐谷美玲が美しくも体当たりの変顔、がに股で観客を笑わせる。その後、片思いの利太とのハラハラきゅんきゅんという展開。変顔→シリアスは、少女漫画原作映画の鉄則となりつつあるんでしょうか。

 私自身はいい加減、恋愛に夢も希望もない年齢なので、両作のこの後半のすれ違いモードは、正直増長に思えてしまいます。「はいはい、どうせくっつくんでしょ?」みたいな。(いや、それを言うと少女漫画大否定なんだけどさ)。でも映画を見に来た女の観客たちの感想に耳を傾けてみると、後半こそが映画の見どころだと言う女子が少なくなかったです。つまり、鈴木亮平の漢まさりな部分は彼女たちにとって添え物で、後半のヤキモキこそが本懐のようです。

 なるほど、確かに自分が恋に恋する年齢の頃は「いつか自分にも訪れるかもしれない恋に至るやりとり」に胸焦がした記憶がある。思えば遠くに来たものね……。

 それにしても『ヒロイン失格』でも『俺物語!!』でも、当て馬役で登場する坂口健太郎くん。どちらの役もめちゃくちゃイケメンなのにいい思いをしないのは、なんの呪いなんでしょうか。そういえば『海街Diary』で、次女佳乃から金をもらって別れ話を留守電で済ますクソ男(参照記事)の役をやってたけど、あれの制裁を受けてるってことなのかな……。
(文/和久井香菜子)

■和久井香菜子
ライター、イラストレーター、少女漫画コンシェルジュ。著書に『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)。サイゾーウーマンで『そうだ、ソルティー京都行こう』『マンガ・日本メイ作劇場』など執筆。Twitter(@kana1204)にて和久井犬の一コマ日記ゆる掲載中

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