人は、圧倒的な理想の具現を前にすると、それほどのプレシャスがこの世に存在しているという奇跡に感極まって涙する。至高の芸術作品を目の前にして、はらはらと涙してしまうのと同じ種類の感受性だ。
だから原作の『俺物語!!』は泣ける。男でも泣ける。中年でも泣ける。かくいう筆者も、平日日中の地下鉄都営大江戸線車内で第2巻を読み、吊り革につかまりながら泣いた。難病モノや悲恋モノのお涙頂戴志向とは、わけが違う。神性を宿した素晴らしさに触れることで流れる、歓喜の涙である。
ところが、コントフォーマットと「泣き」は、すこぶる相性が悪い。「泣き」は状況への没頭からくる感情なので、状況に生じた違和感やキャラクターの逸脱を笑いに転化させる目的のコントからは生まれにくいのだ。「役者さんが突飛なキャラを演じてます感」「なんちゃって感」は、「泣き」にとって邪魔でしかない。
だから、原作に感涙した観客が実写版『俺物語!!』に「泣き」を期待すると、だいぶ肩透かしを食らうことになる。かくいう筆者も、号泣する準備が徒労に終わってしまったクチだ。
とはいえ、「褒めるところがなければ照明を褒める」で知られる淀川長治先生の言葉に倣うなら、映画オリジナルであるラストの畳み掛けは、105分の物語に区切りをつける方法として、うまく機能していた。ただ皮肉なことに、この部分に差し掛かった途端、それまでの脚本が「原作のハイライトを消化することで手一杯」だったことが浮き彫りになってしまう。ここは脚本家の苦労がしのばれるところだ。
ゆえに、もし本作の続編が作られるなら、ぜひ完全オリジナル脚本を望みたい。キャラクターや世界観の説明は今作で済ませている。あとは原作の展開にとらわれない、生身の役者が発しても違和感のないダイアローグを意識すれば、コント化を防ぐことができるだろう。
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