老舗エロゲーメーカーも倒産の危機!? 意外と知らない“ソフト売り上げ本数”の謎とは?【ぶっちゃけエロゲー界はどうよ?連載(1)】

2015.10.31

左上から時計回りに「アリスソフト」「TYPE-MOON」「エルフ」「ビジュアルアーツ」、各公式サイトより。

 10月中旬、「老舗美少女ゲームメーカー・エルフがゲーム制作から撤退、あるいは倒産してしまうのではないか」とプチ騒動があったのをご存じだろうか? 10月15日に発売された、エルフの新作ゲーム『麻呂の患者はガテン系3 完結編』のエンドロールで、これまでにエルフが発表したタイトルの年表と「Thank you for the last 27 years」というメッセージが流れた。それを“まるでお別れメッセージ”とユーザーがネット上に書き込んだことで、瞬く間に話題が拡散。

 それを受けて、あの東京スポーツがわざわざ記事化したため、エロゲーファンや野次馬たちも大いに騒ぎまくったのだが、本当にエルフはやばいのか? そもそも最近はエロゲー界隈で景気のいい話を聞かないが、業界として大丈夫なのか?

 そこで20世紀から21世紀になる前後ぐらいからエロゲー専門誌でライターとして活動、最近では軸足を3次元に移しながらも、いまだエロゲーに携わるフリーライター佐藤氏(仮名)に事の真相と、ざっくり昨今のエロゲー業界について語ってもらった。
 これがまた、知っているようで意外と知らないエロゲー業界話が面白い。せっかくなのでプチ連載でお届けする。

■潰れはしないが、俺らが愛した老舗エルフとはもはや別モノに!?

 

―― 「エルフ、エロゲーから撤退!?」という記事を読んでもらいましたが、どうなんですか、エルフは潰れちゃうんですか?

佐藤「結論から言うと、潰れはしない。ただ、すでに開発スタッフは中にいないと聞いてるので、新作はリリースされないんじゃないかな」

―― あ、そうなんですか。エルフはスタッフの大量移籍、それに伴ってブランド・シルキーズも閉鎖と、景気が悪そうですね?

佐藤「『同級生』『ドラゴンナイト』『伊頭家』とヒットシリーズが何本もあって、景気が良いときは挑戦的な作品を制作したり色んなことをやっていたんだけど、シリーズの要となる人材が退社されたりして、徐々に悪い循環(販売本数が落ちる→予算を削る→作品の質に影響が出る→さらに販売本数が落ちる)にハマってしまったよね。最近だと、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』の権利をMAGES.に譲渡したり、DMMと連動することで、パッケージからダウンロード市場へ切り替えて、シルキーズブランドとして頑張っていたんですけど、DMMからの束縛が強まったらしくて」

―― こういうゲームを作れっていう指令が出るということ?

佐藤「そう。それが強制的になると、もう完全下請けと変わらないじゃないですか。それを嫌ったスタッフたちが、独立してシルキーズプラスを立ち上げたと聞いてます」

―― シルキーズプラスは元気なんですか?

佐藤「第1作目『なないろリンカネーション』は、エルフの匂いが感じられるゲームで好評でしたね。以降の作品も最盛期からブランドの強みだった塗りがすごく良くて、一時期はエルフ塗りを業界中で真似していたほどですけど、その塗りは健在ですね」

―― それは良かったです。しかし、エロゲーに関わるクリエーターさんの発言を追うと、「いつまでエロゲー作れるのかな」とか、弱気なコメントがすごく目立つんです。今、エロゲー業界ってそんなに景気が悪いんですか?

佐藤「悪い! 『PUSH!!』(マックス)も休刊になっちゃったしね。最盛期は月刊誌が10冊ぐらいあったのに、『コンプティーク』(KADOKAWA)がエロゲーを取り扱わなくなって、今は3冊だけ」

※生き残っている月刊エロゲー専門誌は「BugBug」(サン出版→富士美出版/1992年創刊)、「メガストア」(コアマガジン/93年創刊)、「TECH GIAN」(アスキー→エンターブレイン→KADOKAWA/96年創刊)。ここ数年で「PUSH!!」のほか、「電撃姫」(KADOKAWA)、「PC Angle」(ケーズパブリッシング)といった雑誌も休刊となっている。

―― ちなみに、生き残っている3冊のエロゲー雑誌の特徴とは?

佐藤「『BugBug』はカタログ系の本。リリース予定とされている新作ほぼ全てを、ちゃんと載せているので、エロゲー初心者とか、ゲームの購入を考えているけど何を買おうか迷ってる人にはいいと思う。あと、攻略記事も特徴なんだけど、最近のユーザーは皆ググってるからなぁ……。『メガストア』は、以前の陵辱ものばかりという印象は弱まってきている。今の売りは古いゲームの、1本まるごと完全収録をやっているところかな。陵辱系やフェチ系はダウンロード販売が主流になって、絵素材が雑誌側へあまり出てこないから、記事にはしづらいんだよね。『TECH GIAN』は、スクープ記事が特徴。休刊した雑誌とよく張り合っていたよ。他誌でスクープされた作品は扱いが冷遇されてしまうので、メーカーもどこでスクープしてもらうかを毎回悩んでいた。あと、他誌の良いところをパク……すぐ吸収するのも、特徴といえば特徴かな。休刊や廃刊した雑誌の名物コーナーを移籍させたりもしているし。最近は『メガストア』のゲーム収録企画をパク……追随しはじめたみたい」

―― 個人的な印象だとオールマイティーな「BugBug」、エロ&エロ、そしてキャプション芸の「メガストア」、分厚い「TECH GIAN」というイメージです。

佐藤「それはあまり間違っていない気がする。『TECH GIAN』は流行を追いかけてページを作るから、『TECH GIAN』を読めば今エロゲー業界で何がはやっているのか、どのメーカーに勢いがあるのかが、ちゃんとわかるようになっている。その点『BugBug』は全体を網羅しようとするから、流行をガッチリ押さえるみたいなことは『TECH GIAN』に一枚劣る印象。『メガストア』は相変わらず、萌え作品でもエロCG優先でページを組んでいるね」

―― エロゲーの話に戻りますが、今の景気に関する話の前に、歴代のエロゲーで一番売れたゲームって何になりますかね?

佐藤「自分が知っている範囲だと、やっぱり『Fate』かな、無印の『Fate/stay night』(TYPE-MOON)。あれは本当に化け物で、おそらく出荷本数は20万本超えているんじゃないかな」

―― あの『月姫』のTYPE-MOON新作、ということで当時はすごい話題でした。

佐藤「初回出荷後、口コミでどんどん広がって、エロゲー専門誌ではなく普通のゲーム誌でも、“あれはスゴイ”と取り上げられるようになって。さらに『日経エンタテインメント!』のような、“うちはオタク系の企画もやっていますよ”みたいな一般誌が取り上げて、最終的には『フライデー』や『プレイボーイ』とかが、“今のオタク業界はこれが熱い!”みたいな切り口で掲載したから、知名度が半端なく上がったんですよ」

―― さらにTVアニメ化もされましたものね。

佐藤「初期の段階で出荷本数がすごかったのに、遅れていろんな雑誌で取り上げられて、アニメ化されて、そこでもまた売れた。エロゲー専門誌で掲載されているランキングには入っていないけど、実は毎月2,000~3,000本ぐらい売れている、という状態が続いて」

―― 金曜ロードショーでジブリ作品が放送されるたびに、『となりのトトロ』とかが、いまだに売れていくみたいな。

佐藤「そうそう、そんな状態が『Fate』では結局2年ぐらいは続いたのかな……。新作でも3,000本売れないゲームも多いのに、それがずっと続いたんだから、トータルで考えると尋常ではなく売れたと思う」

―― 2位以下がわからないぐらい売れた感じですか?

佐藤「俺が業界に入る前のゲーム、例えば『同級生』(elf)シリーズとか、Leafの『To Heart』、Keyの『Kanon』『AIR』。あのへんは“時代を作った”というぐらい売れたはずだけど、売れた本数と言われると、ちょっとわからないな」

―― 『To Heart』はコンシューマー版もかなり人気でしたよね。

佐藤「あのへんも、もしかしたら『Fate』に迫るぐらいの数字かもしれない。でもここ10~15年ぐらいだと、やっぱり『Fate』が抜きんでてるよ」

―― 『Fate』や『To Heart』は、コンシューマー版とかアニメとか、その後に続く展開の印象が強いんです。エロゲーだけで完結しているエロゲーで、売れた作品というと?

佐藤「『ランス』シリーズ(アリスソフト)なんかは、最近は少し落ちてきているけれど、昔は10万を超える数字を出していたはず。『戦国ランス』は特によく売れたし、15万本を超えているかもしれない。ただ、アリスソフトに限らず、エロゲーの売り上げの数字は基本的にわからないんですよ」

■情報の集約と推測で成り立っていた“売り上げ”ランキング

―― ん? わからないというと?

佐藤「基本、エロゲーの売り上げ本数というのは、正式発表されていないんです。ただ、口の軽い人というのはどこにでもいるもので、工場や流通に近い人間から “ROMを何枚刷ったか”という数字が、なんとなく俺らの耳に入ってくる。あとは状況からの推測ですよね」

―― 出版における発行部数みたいなオフィシャル、CDやDVDのオリコンのようなオフィシャルに準じる数字がエロゲーにはない?

佐藤「ないですね」

―― 業界関係者から聞こえてくる断片的な数字しかないと?

佐藤「そう。だからショップの人も正確な数字は知らないんですよ、具体的な数字は。知っているのは、自分たちが取り扱った数字だけ。“うちでこれだけ売れたから、トータルでこれぐらい売れたのでは?”という推測はしていると思いますよ。ショップからすれば、総出荷のうち、自分たちが何割を取り扱ったかがわかれば、数なんてすぐ出るんですけどね」

―― 出版でも紀伊國屋書店やジュンク堂書店、TSUTAYAとか有力書店の売り上げ速報で、増刷するかしないか決めますものね。

佐藤「ああ、似ているかもしれないですね。だから歴代のランキングは? と聞かれてもなかなか難しいんです。加えてアリスソフトには大きなファンクラブがあって、特に『戦国ランス』の時代なんかは、ファンクラブ経由で数万本ぐらいは販売していたので、数字の実態は全然わからないんです」

―― なるほど。しかし、雑誌などのランキングも苦労して作られているんですね……。

佐藤「だいたいの雑誌は色んなところから聞いてきた情報を集約させて、ランキングを作っていると思います。まぁ慣れてくると、経験則というか、独自の方式みたいなものが出てきて、なんとなくつかめるようになるらしいんだよね。でも、そんな手間をかけたくないと考える雑誌もあって、そこの“売り上げランキング”は、特定ショップの売上ランキングそのままだったりします」

―― 発行部数やCDに比べるとふんわりとしたお話ですね。

佐藤「まあね。でも、メーカーが数字を出したがらないから。これはエロゲー業界に限らずゲーム業界の悪い慣習だと思うんだけど、悪い情報を受け止めず遮断する。売り上げベスト10は発表してもいいけど、ワースト10企画をやっちゃいけない、という空気があるんですよ。悪い数字に関しては皆知っているけれど、誰も出さない」

―― 専門誌が3冊しかない。アニメなんかも狭いというけど、それに輪をかけて狭い業界なんですね。

佐藤「狭い狭い。だから、なかなか慣習が廃れない」

■総売り上げ本数は微減に止まるも、その実態は……

 

―― エロゲー業界の景気に話題を戻します。やはり、全体的な売り上げは下がってきているんですか?

佐藤「例えば年間売り上げランキングを見ると、トップ10ぐらいはそれほど以前と比べて見劣りしないけど、それ以下は厳しい。少し前までは3,000本売れるメーカー、8,000本売れるメーカー、そして2~3万本以上売れるメーカーなど、それぞれに色があったんだけど、そこの垣根が壊れてきて、すごく売れるメーカーと、3,000本も売れないメーカーと、両極端になってきているんですよ。中間・中堅ぐらいというメーカーが少なくなってきている」

―― コミックなんかもそうですよね、『ONE PIECE』みたいなバカ売れコミックがある一方で、少し目新しい試みが受けてスマッシュヒット、みたいな中堅どころが少なくなっているとよく聞きます。

佐藤「そう、エロゲーも同じような状況。だから大ヒットが作れないメーカーは、数で補おうとする」

―― そこも出版社と同じですね(笑)。

佐藤「(笑)。数で補うことで今は回っているから、総売り上げ本数が極端に減っているようには見えないけど、1本あたりの売り上げ平均は減っているし、本数をさばくにはそれだけコストがかかっているわけだから、儲かっているか? と言われると儲かっていない」

―― しかもそのやり方だと、現場には相当負担がかかりますよね?

佐藤「それも景気の悪い出版社と同じです(笑)」

―― (笑)。一回まとめますね。数字は各誌の推測だけれど、それなりに確度は高い。年間売り上げランキングでトップ10ぐらいまでを抽出すると、過去の数字と遜色がないように見えるし、その年で売れた総本数は、それほど大幅に減っているわけではない。

佐藤「そう。でも年間ランキングの50位ぐらいまでで比べると、景気の悪さが如実に出ていて、減ってきているのを実感しますね。昔は年間20位なら○本くらいという感じで順位から数字の目安が出せたけど、今はもう“この順位で○本に届いてないの?”みたいな感じ」

―― AKBやジャニーズがいない週のCDランキングみたいですね、「この数字で10位以内に入っちゃうの?」という。

佐藤「さらに、ソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)が発行しているシールがあって、その発行枚数がそのままゲームリリース本数になるんです。これが年々下がってはいるけれど、そこまでガクンと下がっているようには見えない。頑張っているのかなと思うけど、よく見てみると、売れているのはフルパッケージじゃなくて、廉価版なんです。8,800円ではなく、3,800円ぐらいの。短編やリメイク、あとはリパッケージ、“新しいOSに合わせたバージョンを安く出しますよ”というのがすごく増えている。廉価版がバンバン出ているので、全体の本数だけ見れば、そこそこ売れているように見えるけれど、内情は厳しいだろうなぁという気はするね」

 水面下で頑張って足を動かす鳥のように、自転車操業で頑張るエロゲー業界。連載一発目から予想以上に景気の悪い話となったが、面白いことは面白いので、このまま第2回へと続く!

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