冒頭から泣かせに入ってきた弥生志郎『明日、今日の君に逢えなくても』

 弥生志郎『明日、今日の君に逢えなくても』(MF文庫J)は、初っぱなから泣かせに入ってくれる、とんでもない作品であります。

 物語の主人公・由良統哉には妹がいます。その妹はシノニムという病にかかっています。この病は、いわゆる多重人格です。本当の人格を守るためにさまざまな人格が妹の中には宿っているのです。

 優しさ溢れる妹らしい藍里、一人称がボクの茜、ちょっと乱暴だけと根は優しいロックを愛する蘭香。妹の3人の人格は、日々入れ替わります。そして3人は日記をつけてお互いのことを知り合っている関係です。

 物語の冒頭、夏の祭りで統哉は妹に「わたしは、あなたが好きです」と告白されキスをされます。それがどの人格……誰の告白だったのかわからないまま季節は秋へと進んでいきます。

 こうして描かれる3人の少女の夏から秋へかけての日々。各章には「二〇一五/十/四 Sun」といった形で、その日に起きた出来事を綴る形で進んでいきます。

 主人公にあたる統哉は、狂言回しであり傍観者に過ぎません。そこに、日付を入れた小見出しが挿入されることで、読者はあたかも今現在、あるいは数週間、数カ月前に起きた出来事であるかのような錯覚をさせられるのです。

 そんな物語は、第一章から泣き全開です。なぜなら、あくまで本当の人格を守るための仮の存在に過ぎない人格は、何かをやり遂げた時に消え去ってしまうのですから。蘭香は学園の文化祭に友達と組んだバンドの演奏をすることに全力を尽くし、茜は陸上部で怪我にも負けずに全力でゴールすることに青春のすべてをかけて……。そうして、主人公だけでなく、それぞれの人格を愛する男子や親友達の前から消えていくのです。

 もちろん、ヒロインが死んでいるわけではありません。でも、同じ顔をしているけど登校してくるのは、自分の想い人や親友とは違う誰か。それは、死以上の悲しさ。人格が消え去ることが病気が快方に向かっているのだとしても、こんな悲しい出来事はありません。

 それも、物語は第一章から順に人格が消えていく姿を描くのですから、泣かされるポイントが多すぎます。

 そして、蘭香が消え、茜が消え、本当に妹らしい藍里としての日常が始まるのかと思いきや、違いました。そこには二重三重のどんでん返しが隠されていたのです。残りページ数が僅かになってようやく全貌が明らかになる妹の事実。そこで、さらに涙が流れるのは間違いないでしょう。

 そして、こんなに泣けてしまうのは、ヒロインのキャラ立ちゆえです。とりわけ、最初にいなくなってしまう蘭香が愛するのはパンクロック。バンド名を考えるシーンで「プッシーキャット」なんて思いつく女子高生です。

 自分が消えていくことを知りながらも学園祭で演奏することを決めた彼女は、こううそぶきます。

「ロックスターはみんな、決まって若い頃に死ぬんだ」

 ベタなセリフです。ベタなセリフだけど、泣ける。悲しいけれど幸せになれる作品であることは、間違いありません。
(文=大居候)

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