肉親ゆえの骨肉の争い──ぜんぜん爽やかじゃない部活マンガ『ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-』第1巻

 空は青いのに、どんよりと曇った気持ちになってしまう部活系マンガ。それが、小沢かな『ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-』(新潮社)の圧倒的な物語力である。

 ブルーサーマルとは、雲一つない青空を指す言葉。そんな青空のような爽やかな青春が描かれるのかと思ったら、まったくそんなことはない。

 物語のヒロイン・都留たまき(通称:つるたま)は、冒頭から痛さを感じさせるヒロインである。長崎県から上京した彼女が、大学で目指すのは恋をすること。そのために彼女は夏はテニス、冬はスキーのオールラウンドサークルに入るのである。

 ここで描かれる、暗い高校時代。3年間、バレーボールに明け暮れる体育会系女子だった彼女は、告白するも「ごめん無理」とフラれた暗い過去を持っていた。

 いやいや、その程度の失恋経験なら誰でもあるもの。でも、21世紀にもなって夏はテニスで冬はスキーのサークルに入って、楽しい大学生活……すなわち古典的大学デビューと果たそうとするのが痛すぎる。長崎県の人は、思考が20年くらい遅れているのかと甚だしい風評被害も受けてしまいそうだ。

 当然、そんな大学デビューを目指しても上手くいくわけはない。テニスサークルの体験に、偶然、目に飛び込んできた整備中のグライダーの翼を壊してしまった彼女は、修理代200万円の借金を背負わされて、体育会航空部に入部させられてしまう。

 ここから物語は、ヒロインがグライダーの魅力に惹かれていく姿を描くのであるが、物語はなぜか重い。少しずつ描かれていく日常シーンでは、母親と電話で話せば「高卒で就職すればよかったのに一浪までして」と愚痴られる。さらに、生まれてこの方ずっと姉と比較され続けて、その姉にまでバカにされてきたことも明かされていくのだ。挙げ句の果てに、両親は離婚して姉は父親についていったというから、ヒロインにとっても母親にとっても、家族とは憎しみと同義語であることは想像に難くない。

 そう、この物語のヒロインは、驚くほどに家族関係が最悪なのである。これでは部活に打ち込んだり、大学入学を機に上京するのも当然である。そんな家族と生活を続けていたら、待っているのは殺すか殺されるか、発狂しかないではないか。

 しかし、物語はもっと残酷な方向へと進んでいく。姉が、合宿先で出会った関西の強豪部の部長になっていたのである。久しぶりに再会した姉からは「部活をやめて」「あんたみたいなバカにできるスポーツじゃない」と罵倒の嵐……。

 これまで、さまざまなジャンルのマンガで“血を分けた肉親がライバル”という設定は、当たり前のように用いられてきた。けれども、この設定は激烈だ。単に兄弟姉妹がライバルなのとは違う。自分のこれまでの人生が、上手くいかなかった原因の人物こそがライバルなのである。物語の中では、決して姉には勝つことができなかった劣等感が描かれているが、これが怨念の入り交じった対決姿勢へと変化したときにはどうなるのか。

 単にグライダーを飛ばしながら青春するのかと思いきや、えらいハードルの高い人生の転機を描くことになりそうな本作。空は青空でも、登場人物達の心の中は大嵐だ。
(文=是枝了以)

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